「やだ、そんなことで悩んでんの?デーティング期間なんて最高じゃない。何人ともお試しで付き合ったっていいんだから、私なんて年がら年中デーティング期間よ。アメリカ式のルールの方が好きだって人も多いけどね」
「いや、でも僕は同時進行って好きじゃないんですよね。付き合う人は結婚を考えられる人がいいんで」
遥斗の答えに、ギャル姐は「やだ〜、かわいー、タイプ〜」とからかう。
すると側で聞いていた20代前半の女性が話に入ってきた。
「え、莉乃さんといい感じなんですか?」
「いや、いい感じかどうかは…。それより、莉乃さんのこと知っているの?」
「もちろん、たまにですけど前はここに顔を出していましたよ。でもそれなら、もうここに住む日本人とは、しばらく付き合えないですね」
茶目っ気のある笑顔をする彼女に、遥斗は「え?」と返す。
「だって、一度日本人コミュニティでそういうことがあると、噂はすぐに流れますよ。人数が多いようで、村社会なので。まあでも、その分知り合いもたくさんできるので、ネットワーク作りにはいいんですけどね。
だから最近は、日本人と付き合いたいからって、こっちで日本のアプリを使ってる人も多いですよ?」
「そうなんだ…」
正直、遥斗は今日いい出会いでもあれば、などと淡い期待をしていた。けれど彼女に釘を刺され、確かにそうかもな、と自制する。
その夜、遥斗は昔使ったことのある日本のアプリを再インストールし、登録し直した。
― まあ、こっちで出逢えるなんて期待はしていないけど…。
そう思いながらも、少しだけワクワクして眠りについた。
◆
それから数日。再登録したマッチングアプリの通知は鳴り止まず、ついには通知音を消した。
昔もやったことがあるが、ニューヨークに住んでいる、というステータスが加わったおかげか、前よりも「いいね」の数が跳ね上がった。
日本にいた頃は自分もモテていたことを思い出し、ズタズタに崩れたプライドがまた少し積み上がる。
そこで一人、自分の好みの女性を見つけた。
明里、26歳。日本の航空会社のCA。
一瞬香澄を思い出したが、彼女とは会社も違うし大丈夫だろうと、明里とメッセージのやりとりをしてみる。
すると、ちょうど来週ニューヨークに来るというので、会うことにした。
「はじめまして、明里です」
明里は、白のノースリーブブラウスに淡いグリーンのスカートを合わせ、上品で華やかな装いだった。
柔らかいボブカットの髪が揺れるたび、明るく社交的な空気がふわりと広がる。
楽しく食事をしていると、何気なく彼女が言った。
「今度、学生時代の先輩の結婚式に出るんですけど、それがすっごい豪華なんです。お相手の方が起業家らしくて、八芳園で400人は来るって言ってたかな。有名人も来るみたいで、何を着て行ったらいいんだろうって悩んでます。香澄さん…その先輩、昔から一見控えめな感じなんですけど、よくモテる人で…」
「え、香澄ちゃん?あのCAの?」
思わず声が漏れる。
「え、そうです。香澄さん、大学の先輩で。遥斗さんも知り合いですか?」
明里は偶然を喜ぶように無邪気に聞いた。








この記事へのコメント
どちらか(相手を)見極めるのが難しいんだけど、莉乃は前者だと予想、止めといたほうがいい。