― 早く食べたいんだけどな…。
遥斗はその間、手持ち無沙汰にただ眺めるしかなかった。
けれど、その後は前回と同様に二人の時間を楽しんだ。
リンの強気で可愛い冗談を混ぜ込むスタイルの会話に、遥斗はすっかり翻弄されていく。
そしてデートの終わり、リンが言った。
「今日は、私にプレゼントは何もないの?それとも楽しみは全部後に取ってあるの?(No goodies today, or are you just saving all the fun for later?)」
リンの言葉に遥斗は一瞬慌てるが、動揺を悟られないように返す。
「プレゼントは、君が次もデートしてくれるように取ってあるんだよ(I guess… I’m saving it so you’ll want to go on another date with me)」
するとリンは小悪魔っぽい笑みを浮かべ「次回、楽しみにしているわ」と遥斗の耳元にキスをした。
遥斗は必死で冷静を装い余裕の笑みを見せるが、すべての思考が停止するほど熱を感じていた。
それから遥斗は、次回はどんなプランを立て、どんなサプライズを贈ろうかと、そんなことばかりを考えるようになった。
次のデートは話題のルーフトップバーを予約し、バラの花束をプレゼント。その次は夕暮れのブルックリンブリッジを歩いた後、夕食を食べ、高級香水ブランドのキャンドルをあげた。
けれどどれもハマらなかったのか微妙な顔をされ、その度に遥斗は「もっと気が利いたデートを考えなければ」と焦った。
だがその頃から、彼女の要求はどんどん増していった。
会議中に電話が来て「今すぐソーホーにあるレストランに迎えに来て」と言われたり、「明日は会社を休んでマイアミでクルーズしよう」と言われるなど。
遥斗がその度申し訳なさそうに断ると、リンはため息交じりに言った。
「女性に尽くすのは当たり前よ。過去の男たちはみんな私に尽くしてくれたわ」
プツリと電話を切られ、その時やっと遥斗は冷静さを取り戻した。
リンといるのは確かに楽しい。美しい彼女と恋の駆け引きを楽しむのはジェットコースターに乗っているような感覚で、気持ちがふわふわとした。
けれどリンといると、時々彼女の愛情の求め方に疑問を感じる。
どれだけこちらが愛情を示そうとも、彼女の愛情タンクが満たされることなどない感覚。
現実問題、リンとこの先ずっと一緒にいられるだろうか?と思った遥斗は、頭を冷やすため、しばらくリンと距離を取ることにした。
数日後、ふとリンのことが気になり、彼女のインスタを覗いてみる。
するとそこには、新進気鋭の若手アーティストのプライベートギャラリーで、にっこりと微笑む写真が。
ハッシュタグには#datingの文字。さらに「サプライズで、私のために手配してくれた」と書かれている。他にも、何人かの男性とデートを楽しんでいる痕跡が投稿から読み取れた。
どの投稿からも、いかに自分が男から尽くされているか、を誇示しているようにも見える。
― あれ、俺ってリンの何が好きだったんだっけ…?
舞い上がっていた遥斗はようやく我に返り、静かにリンの連絡先を消した。
◆
数日後。
仕事から帰ろうとした22時半。先輩の二宮から連絡が来た。
「今から来てくれない?」
遥斗は、先輩や上司の誘いにはなるべく乗るようにしている。
断ってもいい時代だからこそ、誘いを断らないことで重宝され、仕事をする上でもいい関係が築けると信じているからだ。
その日も疲れて帰りたい気持ちもあったが、ちょっとだけ顔を出そうと二宮から送られてきた住所に向かった。
ミッドタウンの高層階にあるバー。入るなり、香水と笑い声が混ざった空気に包まれる。
遥斗に気がついた二宮が「こっち」と出迎えた。








この記事へのコメント
って、外見でしょw
NYの中国系インフルエンサーが食い逃げを繰り返してついに収監されたニュースが浮かんでしまった。 弁護士オバチャンの生贄、お気の毒。
こんな女誰でも無理でしょうね真剣に付き合うのは。 今すぐ迎えに来い?明日マイアミ行こう?調子に乗りすぎ!