「今日ニューヨーク在住の日本人の集まりがあったんだけどさ。ギャル姐に若いの連れてこいって言われて。来てくれて助かったよ」
そう耳元で囁き、店の奥で革張りのソファの真ん中に座る女性に視線を送る。
ギャル姐とよばれる彼女は54歳、大手弁護士事務所の重鎮。
にもかかわらず、髪は金に近いベージュで、長い付け睫にミニスカート。
ニューヨークには大きな日本人会がいくつかあるが、そこから派生した小さなコミュニティで、こうやってよく集まっていると聞く。
遥斗を見るなり、ギャル姐は満面の笑みを見せた。
「やだ、かわい〜!まだ二十代?私と二回りちょっと違いか。どう、私は恋愛圏内?」
いきなりセクハラ発言か、と思える冗談を飛ばされ、困惑しながら答える。
「申し訳ないのですが…圏外どころか別の惑星です」
わざと深刻な顔をして見せると、ギャル姐は大笑いする。
「この子おもしろい!気に入った!」
ご機嫌な様子で隣に座らされて、遥斗は逃げ場を失った。
「どんな子がタイプなの?」の定番の質問に、とりあえず無難に返す。
「僕は、自立した女性がいいですね」
するとギャル姐の顔から笑顔が消える。
「またそれ!男はすぐ“自立した女がいい”とかって言うのよ。でもそれって結局、自分が支えられるだけの器がないだけ。結婚したら家事も育児も嫁任せ。うちのex husband(元夫)もそうだったわ〜」
そこからスイッチが入ったのか、シャンパンを片手に延々と“元夫批判”が続く。
遥斗は笑顔を保ちながら、心の中で時計の針を追っていた。
「トイレ、行ってきます」
そう言って、ようやく逃げ出した時だった。
辺りを見渡すが、そこに二宮の姿はない。いつの間にか帰ってしまったようだ。
スマホを確認すると一言。「後は頼んだ」とだけテキストが来ていた。
― うわ、やられた…。生贄だったのか。
遥斗は「一週間スタバ、先輩の奢りで」と送ると、いいねマークが返ってきた。
明日も早いし、そろそろ抜け出そうかと考えていた時、ある女性が話しかけてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
「いや、なんか大変そうだなと思って。あの方、パワフルですね」
女性の柔らかい声に、遥斗はどこかほっとした。
「ほんとパワフルですね。初めまして。成瀬遥斗です。こっちには駐在で来ました」
「香澄です。CAをやっていて、今日はこっちに住む大学時代の先輩に誘われて来ました」
そして二人で軽く会話を交わす。
艶のある髪を緩く巻き、華やかながらも品のある服装。柔らかく微笑む表情に、懐かしさのようなものを感じる。
― なんか、落ち着くな。
ニューヨークに来てから、早くこちらに馴染みたいのもあり、日本人の集まりには行かず、現地の女性とばかり出会ってきた。
彼女たちは楽しく刺激的だった反面、言語も文化も違い、その分いつもどこか力が入っていたように思う。
だが香澄と出会い、日本語で気負わずに話せたことで、心がふっと軽くなるのを感じた。
「こっちにはよく来るんですか?もしよかったら、また会えませんか?」
「はい、ぜひ」
香澄を滞在先のホテルに送り届けると、遥斗は懲りずにまた、新しい出会いに期待を膨らませた。
▶前回:「本気?それとも遊び?」アプリで出会った女性に、初デートで突然聞かれた男は…
▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?
▶︎NEXT:12月3日 水曜更新予定
回りに回って最後はやはり日本人がいい。遥斗と香澄は順調にデートを重ね…








この記事へのコメント
って、外見でしょw
NYの中国系インフルエンサーが食い逃げを繰り返してついに収監されたニュースが浮かんでしまった。 弁護士オバチャンの生贄、お気の毒。
こんな女誰でも無理でしょうね真剣に付き合うのは。 今すぐ迎えに来い?明日マイアミ行こう?調子に乗りすぎ!