「Haruto… you’re great, but in this city, confidence is everything. Hold the door, order the drinks, own the room.(あなたは素敵よ、でもここは自信がすべてなの。ドアを開けてドリンクを注文して、この空間を仕切るの)」
微笑みながら言うその顔からは、本心が垣間見えた。
― 俺では物足りないってこと…?
再び遥斗のプライドが崩れそうになる。だが遥斗は空気が重くならないように、柔らかい表情で本音を伝えた。
「そんなに色々言われると、疲れるよ」
すると、アリソンは遥斗が言い返すと思わなかったのか一瞬わずかに目を見開き、そして冗談っぽく笑う。
「Think of it as grooming you into a real NYC gentleman.(ニューヨークにふさわしい男性になるための勉強と思ってよ)」
— 待って、俺は育てられてるってこと?俺が理想の男になるか試してるだけ?
笑顔のままグラスを傾ける彼女を見ながら、遥斗はすっと気持ちが冷めていくのを感じた。
その夜、部屋に戻ってスマホを開くと、彼女からのメッセージが届いている。
『この髪型、ハルトに似合うと思うの』
言葉と共に、数枚の男性の写真。
どれもサイドを短く刈り、前髪をジェルで後ろに流したスタイル。
ー またか…。
返信する気になれず、遥斗はスマホの通知音を消し、ベッドの上に放り投げた。
そのまま連絡の頻度が低くなり、3週間ほどで連絡が完全に途絶えた。
せっかくニューヨークにいるのだから、どうせなら現地の人と出会ってみたい。
そう思う一方で、ここでの恋愛は想像以上に難しく、エネルギーを奪う。
これまで高くそびえ立っていたプライドはグラグラと平衡感覚を失くし、遥斗は珍しく自信を失った。
◆
数日後。
オフィスでコーヒーブレイクを取ろうと休憩室に行くと、先輩の二宮がいた。
「よ。そういや、この間教えた店どうだった?デートだろ?」
「お店、すごくよかったです。ありがとうございます」
「その割に、全然楽しそうじゃないな。最近プライベートはどうなの?」
二宮は自分が幸せな結婚をしたので、結婚の良さを布教したいのか、何かと遥斗のプライベートに口を出したがる。
「ちょっと今は疲れてしまって…休憩中です」
「何言ってんだよ、仕事も恋愛もさっさと動かないと、良い案件は誰かにかっさらわれるぞ。よし、俺が次のデート相手を決めてやる」
二宮はさっそく遥斗に、スマホを出すように促す。
遥斗は断れず、仕方なくスマホを渡した。
二宮は真剣な顔でアプリを開くと、突然「Wow!」と声を漏らす。
「ちょっと遥斗、この子見てみろよ」
興奮気味に見せられた写真には、息を呑むほど美しい女性が笑顔を向けていた。
長く艶のある黒髪に印象的な猫目。背景にはブルックリンブリッジが写っている。
名前はLin、年齢は27。出身は上海。
「よし、次はこの子だ。俺がlikeを押しといてやるよ」
止める間もなく二宮がプロフィール横のハートをタップし、メッセージを書いて送ってしまった。
「もう送っちゃったんですか!?何を書いたんですか!」
慌てる遥斗に、二宮は悪い笑顔でスマホを返し、行ってしまった。
恐る恐るメッセージを確認する。
「If elegance had a face, I’m pretty sure it’d look a lot like yours.(もしエレガンスという言葉に顔があったら、君にそっくりだろうね)」
— 嘘だろ…。よくこんなクサいセリフ思いつくな…。
やっちゃった…と思った瞬間、リンとマッチした通知が届く。
疲れていた遥斗の心に、再び小さな火が灯った。
▶前回:「言わないといけないことがあるの…」数回デートして、そろそろ付き合えると思っていた彼女から衝撃の告白が
▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?
▶︎NEXT:11月26日 水曜更新予定
美人インフルエンサーのリンとデートすることになった遥斗だが、文化の違いに困惑し…







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金正恩カットかな