「あの役はどうしても欲しかったから…受かってからも必死だったんです。完成してからも、全てがうまくできたとはとても思えなかったんですけど…」
「私は素晴らしいと思ったわ。それにいくつかの映画祭で、助演賞をもらってたわよね」
「地方の映画祭の、ですけど」
「大きな賞は、利権も絡む。全てだとは言わないけれど、出来レースも多いでしょう?だから、地方の評価こそ信じられるのじゃないかと私は思うわ」
静かに、けれど凛とした口調でよどみなく言いきったキョウコに、このパーティーには、その“利権”に絡んだ人達が多くいるのではないかと、ともみの方が心配になり、周囲を見渡す。
― やっぱり…門倉先生って、作品だけじゃなくて、人としてもかっこいいんだな。
キョウコに見惚れていたともみに、大輝が拗ねたような顔で言った。
「キョウコさんの作品は全部見てるけど、あの役がともみだったなんて。オレ、気づいてなかったな」
「公開されてからもう10年以上が経つし、大輝くんが見たのも、随分前でしょう?出演シーンが多い役でもないわけだし、私も今とだいぶ印象が違うから仕方ないよ」
そもそもつい最近まで、私の過去なんて興味なかったからじゃない?という本音はぶつけず、心で思う。
— あなたの女性の趣味が、とびきり良いってことがわかっただけでも…うれしいよ。今日来て良かった。
感謝のような気持ちで大輝に微笑み、キョウコに視線を戻すと問いかけられた。
「ともみさんは、今も芸能のお仕事を?」
「いえ、もう…やめてから随分経ちますね」
そう、と微笑んだキョウコが、なぜ?とか、もったいないわね、とか、それ以上を追求しないことにも、ともみはさらに好感を持った。
おそらく170cmを超える身長、ショートカットにブラウンのパンツスーツ。“女”を強調するアイテムを装備せずとも、知性に裏打ちされた色気が漂い、きっと“良質な男性”からモテる人だ。
― 強敵には間違いないけど、なんか燃えてきたかも。
憧れの人が恋のライバルになった不思議。そのライバルが言った。
「ともみさん、もしよければ、これから2人きりで話しませんか?」
「キョウコさんひどい。それって、今日はもう、オレは用無しってこと?」
苦笑いの大輝に、「どうしたい?」と聞かれ、ともみは迷うことなく、「是非!」と答えていた。
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