港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「どういうつもり?」もう終わったはずの元カノが、突然うちに来た夜。男は戸惑い…
途切れ途切れの目覚まし時計のアラームのような、微かな鳥の声に朝を知らされたともみは、カーテンの隙間からこぼれる光に焦点を合わせていくうちに、自分の背にいつもはない温もりがあることに、ぼんやりと気がついた。
体に乗せられた腕の重みが誰のものなのかが、眠りにつく前の記憶と共に浮かびあがってくると気恥ずかしさで一気に目が覚めた。そして慌てて…とはいっても、まだ眠っている大輝を起こさぬように、そっとその腕から抜け出す。
すぅ、すぅ、と、規則正しく穏やかな寝息に、そんなところにまで育ちの良さが出るのだろうかと、寝顔にしばらく見とれたあと、静かに寝室を出た。
お湯を沸かしながら、昨夜のことを思い出すと、顔を洗い歯を磨いて冷えたはずの顔が、また火照ってきてしまう。
― 大輝さんと付き合う…なんて、まだ、信じられないけど。
桜並木の下で告白されて恋人同士になった時、既に25時を過ぎていたこともあり、お互いの照れ臭さをごまかすようにタクシーに乗った。車内で並んだあともむずがゆい沈黙が続き、中目黒のともみの家に着くと大輝は一緒に降りたものの、タクシーを待たせたまま、家に入るのを見届けたら今日は帰る、と言った。
そのまま一緒に過ごせるものだと思っていたともみが、泊まらないのかと聞くと、大輝は困った顔で笑った。
「なんか今オレ…ものすごく恥ずかしくて。これ以上一緒にいるともっとかっこ悪い所を見せちゃいそうだし、今夜泊まっちゃったら、ともみちゃんも今までと何が違うの?って思うんじゃないかなって」
つまり、もう体だけの関係ではなくなったというケジメを今日だけでもつけよう、という大輝の気遣いのようだった。けれど。
「だから、おやすみ」と、ともみを軽く抱きしめ、すぐに離れた大輝の腕を、ともみは思わず掴んでしまっていた。
今夜だからこそ一緒にいて欲しいと伝えればいいだけなのに、うまく言葉にできず、ただうつむき、「ともみちゃん?」と問われてもその手は放せなかった。すると。
「ちょっとだけ、離してくれる?」
優しい声に、ともみがなんとか顔を上げると、「運転手さんにお金払ってくるから、ね?」と子どもを諭すように微笑まれると急激に恥ずかしさがこみ上げ、ともみははじかれたように手を放した。
そして、大輝はともみの部屋に泊まることになった、のだが。
この記事へのコメント
メグの件はかなり複雑だけど、多分今はメンタルズタボロ状態なんだと読み取りました。とにかく続きを早く読みたいですね。