西麻布というこの街で起こったことは、どういう仕組みになっているのか、全て光江の耳に入る。それがSneetでのことなら尚更で、光江に隠し事などできないし、ミチにもするつもりはなかった。
「で?メグのことなんだろ。アタシに何をして欲しいわけ?」
ずばりと切りこまれてもミチは驚いたりしない。光江はミチの全てを知る唯一の人で、ミチにも、光江のことを誰より知っているのは自分だという、自負があった。
15歳でこの街に紛れ込んだミチは、酷く荒れた生活をしていたところを光江に拾われた。光江はミチがはじめて心を開いた大人でもある。
「昨日メグが突然店に来たんですけど、その後、オレの家にも…」
急かすことなく白茶を楽しむ光江に、ミチは説明を始めた。
仕事を辞めると言ったメグが、その理由を詳しくは話してくれないこと。何かに怯えて眠れない彼女を助けたくて、自分でもメグについて検索してみたけれど、わかったことはとても少なかったこと。
だから、光江を頼りたいのだと頭を下げた。
「メグの名前でヒットした最新の記事は、半年前のものでした。アフリカの紛争地域にある小さな村を取材していて。
その村では、女の子は幼い頃から働くことが当たり前で、これまで学校に行かせてもらえていなかったらしいんですけど、最近では、男の子と同じように勉強したいと願う子も増えているから、女の子が通える学校を作るプロジェクトが立ち上がっているという記事でした。
メグは、学校を作るために政府に働きかけているNGOのスタッフを取材しながら、何人かの女の子の生活を取材していました。
中でも、リリアちゃんという10歳の女の子には思い入れが強かったようで、9人兄弟の真ん中に生まれた彼女が、どれだけ自分の時間を犠牲にして家族のために働いているか、それがどれほどの重労働なのかを、一か月ほど一緒に過ごして記事にしたみたいなんですけど…」
これです、とミチは光江に携帯を差し出した。その記事のトップページには、リリアがその小さな手でメグのカメラを構えている写真が使われていた。将来はメグみたいに色んな国を飛び回る記者になりたい、というリリアの言葉と共に。
黙って記事を読み終えた光江が、それで?とミチを促す。
「少なくともこの記事を書くまでは、メグは、仕事を続けられていた。ということは…」
「この記事の後に何が起こったのかを、アタシに調べて欲しい、ってことだね」
ミチが頷くと、光江が珍しく大きなため息をついた。そしてギロリとミチを見据えたあと、笑った。
この記事へのコメント
その通りだと思う、多分その子亡くなったんだよね? だから迂闊なコメントは書けないけれど、暫く仕事から離れて休む事も必要なのかも。ミチと結婚して子供も出来て忙しくするのも、心のリハビリになるかもしれない。
本当にこの連載は続きが気になりますね。