今夜、ともみと大輝が来ることは、ミチも知っていた。
メグが現れる少し前、客足が落ち着いたタイミングでミチが携帯を確認すると、ともみからLINEが届いていたから。
1通目は『今日こっちが終わるのは、24時過ぎになりそうなんですけど、その後、寄ってもいいですか?』というもので、その10分程あとに、『大輝さんと待ち合わせすることになりました』という2通目が着信していた。
今は23時半過ぎ。ミチは、今夜どちらが誘ったのか、2人に何があったのかを詮索するつもりはなかったが、ともみへは、ついつい親心のようなものが働いてしまう。
「大輝、お前…なんかあったろ?」
「え?」
「今日のお前はヤバい。悩みがあるなら聞くから、ともみが来る前にその、人類皆殺しにしそうな色気っつーか、フェロモン的なヤツを抑えてくれ」
大輝は一瞬きょとんとしたあと、「ミチさんの口からフェロモンって」と笑った。
「自分じゃわかんないよ。でもうれしいな、ミチさんにもオレの“フェロモン”が通じるなんて」
「通じてねぇよ。ただ、バカみたいに垂れ流すのをやめろって言ってるだけ」
眉をひそめたミチを、大輝がまた笑って続けた。
「ほんとに話していいですか?ミチさんにとってはかなり面倒くさい話ですよ、たぶん」
「そう言われると、聞くのをやめたくなるけど」
眉のシワをさらに深めながらも、話すなとは言わないミチが、実は面倒見が良いことを知っているのは、この店の常連客の中でも限られているけれど、大輝はその一人だ。
はぁ~と、ため息さえ色っぽく、大輝は話し始めた。
「女の子に対してこんな感情になるなんて今までなかったから…その子のことを、このところ、ずっとぐるぐる考えちゃってて」
「その子って、まさか…」
「ともみちゃんのことなんですけど。ともみちゃんとの間でちょっと色々あって。それでも最後は、友達になろうって言ってくれたのに、全然、連絡がこないんです。女の子から連絡がないことを寂しいなって思ったのは…好きな人以外では初めてなんですけど——こっちから連絡はしにくくて」
「…その話、ともみが来る前に終わる?」
思ったより確信に迫る深い話で、ともみには聞かせられないなとミチは気にしたが、大輝は「ともみちゃんが来たら切り替えますよ」と妙に落ち着いている。
「ミチさんって、オレとともみちゃんのこと、どこまで知ってます?」
「ほぼ知らない」
「それはウソだな~。ミチさんの勘の良さで気づかないなんてありえないし、最近のともみちゃんってミチさんのこと、すごく信頼して頼ってるように見えるから。オレとのあれこれも相談されたんじゃないかなって」
「本当に何も聞いてないよ。ともみは人に相談するタイプでもないし。ただともみって、自分では隠せてると思ってるけど、割とわかりやすいだろ」
ミチは本当に一度も、ともみから大輝の話を聞いたことはない。ただ、Sneetに来た大輝へのともみの態度や言動から、2人の関係が徐々に変化していることに気づいたというだけだ。
― それでつい、ともみをからかっちゃったんだけど。
ミチは本来、女性をからかったりはしない。でもなぜか、大輝のことで強がり、平気なフリをするともみがいじらしく、微笑ましく見えてしまったのだ。
「わかりやすい、か。やっぱミチさんってすごいな。オレは全くわかってなかったんですよ。で、ともみちゃんのことを傷つけちゃった」
長い指でロンググラスの水滴を撫でるようにぬぐいながら、大輝は情けなさそうに笑った。
この記事へのコメント
ミチと大輝のやり取り、面白過ぎる! ホテルに泊まれよ俺が出すから→お金はあるけど払うのはもったいないからイヤ とかメグとのやり取りなんだかかわいい。
東カレさん、本気出してNetflixにドラマ化打診してほしいです