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TOUGH COOKIES Vol.24

「このまま彼と結婚しても、幸せにはなれない」30歳女が下した苦渋の決断とは

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。

▶前回:元カノと5年ぶりに再会。「今でも大切な人」とお互い確信しているが、35歳になった今…

Customer5:優しい恋人からのプロポーズを受けられない秘密がある兵藤美景・30歳


「あ、雨だ」

ルビーの気の抜けた声が場の緊張を緩め、ともみと美景の視線が動く。BAR・TOUGH COOKIESには畳一畳分程の天窓があり、それが唯一の窓だ。

― 桜雨、だっけ。

天窓に落ちてくる雨粒。店の灯りに照らされてきらめく水滴を見つめながら、ともみは桜の時季に降る雨の呼び名を思い出した。4月に入ったというのに、今年はまだきちんと桜を見ていない。東京の開花宣言は確か先週だったはずで、もしかしたら満開も過ぎているのかもしれない。

特に桜が好きだというわけではないのに、見ないまま季節を終えるのは惜しいと感じるのは日本人特有の感覚だろうかと、ともみが思ったその時、急に雨音が強まり、ルビーが「桜、散っちゃわないといいな」と呟いた。

― それは確か、花散らし。

ようやく咲いた桜を容赦なく散らせてしまう雨や風を表すその言葉を、ともみに教えてくれたのはミチだった。

ちょうど一年ほど前。BAR・Sneetの開店前の買い出しから戻ってきたミチの肩が濡れていた。雨が降ってきたのかと聞くと、花散らしの雨にならなきゃいいけど、と返ってきた。きょとんとしたともみに、ミチがその意味を教えてくれたのだ。



「それで、ともみさんの提案って?」

ルビーが話題を戻し、ともみの視線も美景に戻った。

「私が美景さんだったらどうするかなって考えてみたんですよ。実は私も誘惑の多い世界で生きてきたので——もしあの時違う選択をしていたら、美景さんと同じように、誰かの脅迫に怯える立場になっていただろうなってことが、わりとリアルに想像できるんですよ」

この記事へのコメント

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No Name
tough cookies に来た時はどうにか上手いこと全て隠して穏便に済ませる方法を探したいと思ってたんだろうね。 世間からのイメージばかり気にする見栄っ張りでプライドの高い情けない自分。やっと気付いてよかったよ。 全てを失ってそこからどう這い上がるか...
2025/08/05 05:345
No Name
美景( と最初の相談者みず穂も) 自業自得だったから、ともみにビシッと言われて読者側はスカッとした。メグとミチの展開を早く読みたい♡
2025/08/05 05:384
No Name
脅しもそうだしそれ以上に何してくるか分からないような変なオヤジと、お金のためとは言えよく愛人関係を続けてたな...というのが庶民の感想かな。そこまでして「自力で起業した」イメージを守りたかったなら、それこそ光江が相談者義務付けているような秘密保持の契約を、香川と交わしていればまだよかったのかも??!
2025/08/05 05:523
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TOUGH COOKIES

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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