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友情の賞味期限 Vol.4

37歳専業主婦、子どもを預けて夜遊びへ。21時の麻布十番で見た“ある真実”とは

西宮ことり

「まりかちゃんは?颯斗くんとのこと聞きたいな」

私が聞くと「とにかく相性が良くて、一緒にいるのが楽なの。付き合ってないから、終わりが来ないのもいいし」と教えてくれた。

軽く脚を組み替えながら話すその様子に、由里子が「まりかのそういうとこ、変わってないよね」と笑いながら、生ハムメロンを口に運んだ。


「なんかいいなぁ…そういうの」

思わず口にした言葉に、まりかが「じゃあ愛梨ちゃんにも、誰か紹介しようか?」と冗談めかして言ってくる。
慌てて首を振ると、3人でまた笑いが弾けた。

「ねぇ、愛梨ちゃんってピラティスに通ってるんでしょう?どこのスタジオ行ってるの?」

話題は尽きることなく、お互いの趣味や美容の話へとシフトしていった。まりかが、ピラティスのインストラクターだと知り、私は身を乗り出し、相談をする。

「骨盤をニュートラルにすると、肋骨が浮いちゃって…未だに毎回と言っていいほど注意されるんだよね」

そうこぼすと、まりかが「今度、私がレッスンしてあげるよ。特別価格で」とニカッと笑う。

敬語とタメ口を絶妙に交ぜる必要もなく、変に互いを持ち上げることもしない自然な会話が心地よかった。

「ねぇ〜。楽しすぎるんだけど。私たち、この先もずっと友達でいられるかな」

ほろ酔いの由里子がふとこぼしたその言葉に、まりかが「今度は大丈夫!」と笑ったが、私は即答できなかった。

だって、由里子とは子どもの知育教室が同じというだけ。その習い事もいつまで続けるかわからないし、やめた途端、毎週会うことはなくなる。やめた後に交流があったとしても、どちらかが小学校から私立、どちらかは公立だったとして、今の関係を保っていられるのだろうか。

「愛梨ちゃん?」とまりかに声をかけられ、私は慌てて「もちろん、私だってずっと友達でいたいよ」と答えた。

それは、嘘ではなかったから。



パーティーが終盤に差し掛かった頃、DJブースでは私たちより上の年代の懐メロがかかり、お姉様方が楽しそうに踊り始めた。

「どうする?まだ21時前だけど。由里子はもう一軒、行ける?」とまりかがデザートのアイスを食べながら言い、由里子はスマホを確認して「じゃあ、あと1時間だけ」とその誘いに乗っている。

私は今夜、圭太を預けている自由が丘の実家に帰る予定なので、ホテルの車寄せで解散となった。

ふたりを見送ってからスマホを見ると、母から連絡がきていた。


『圭ちゃんお利口さんで、20時に寝たよ。十番のマンションに帰っていいから、明日迎えにおいで』

― え…いいの…?

圭太に会いたい気持ちもあるが、今夜は母の優しさに甘えることにした。

― 将生に連絡しとこう…。

そう思ったが、私はスマホをバッグにしまった。実家に泊まるはずの私が帰ってきたら、将生がどんな反応をするのかを、見たくなったからだ。

息子がいない部屋にふたりっきりだなんて、産後初めてかもしれない。私は母に『ありがとう。そうする』と返事を打ち、自宅へと歩き始めた。

けやき坂を下り麻布十番商店街に入る。土曜の夜だからだろうか。街には人の気配があって、楽しそうな声があちこちから聞こえる。

その時だった。夫の姿を見つけたのは。

「……うそ」

信じたくない。

でも、あれは…どう見ても、私の夫だ。

私は、無意識に彼らの後を追っていた。ドッドッとうるさく鳴る心臓を手で押さえながら。

ふたりは商店街の脇道に入り、雑居ビルの前で立ち止まった。

「どこに行く気なの…?」

そのビルには、シーシャバーと個室サウナが入っている。どちらも“女連れ”で入っていくには、意味深すぎる場所だった。

― あんな顔、見たことない…。

将生は、女の腰に手を添えながら無邪気に笑っていた。私といるときは、あんな風に笑わないのに。

私はそのまま、とぼとぼと家を目指した。こんなことなら実家に帰ればよかったし、圭太の寝顔を見ながら楽しい余韻に浸りながら眠りたかった、と思いながら。

高鳴った心臓だけが、まだ現実を処理しきれずにいるが、足はちゃんと自宅マンションを目指していた。

鍵を開け中に入ると、やはりそこには将生はいなかった。

真っ暗な部屋に電気をつけて、洗面台の前に立ち、メイクを落とし、気力を振り絞りシャワーを浴びる。


ミラー越しに、泣きはらした顔をした女が映っていた。

「誰これ。ぜんぜん可愛くない…」

ベッドに倒れ込んでも、眠れるわけがなく、脳内で何度も再生されるのは、将生の後ろ姿だった。

電話してみるか、それとも「さっき見かけたよ」とメッセージを送るか。

『愛梨:圭太は明日の朝迎えに行くことになったよ。家に帰って来たけど、将生出掛けたんだね』

そう送るのが精一杯だった。

これを読んだら、慌てて帰ってくるだろうか。それとも…私は考えるのをやめて、目を閉じた。将生からの返信にも気づかずに。


▶前回:「彼といても孤独は埋まらない」代理店勤務の29歳男にハマる37歳女の抱える闇

▶1話目はこちら:「男の人ってズルい…」結婚して子どもができても、生活が全然変わらない

▶Next:9月10日 水曜更新予定
由里子は会社の男の先輩に誘われ…

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この記事へのコメント

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No Name
ヴィトンのミニドレスww しかも白....
2025/09/03 05:2414Comment Icon3
No Name
1ページ目は丸ごと要らなかったかも....
アプリで知り合った女と不倫?そして将生との修羅場?と思って読み進めたけれどLINE送っただけで終わってしまった。めちゃくちゃつまらない。これなら冒頭ではなく最後に将生を見かけて終わる方がいい気がした。しかも来週は由里子で再来週はまりかでしょう。
2025/09/03 05:2012
No Name
地獄はやっぱり漢字だからこそパンチがあり、わざわざ片仮名(ジゴク) にしなくてもいいのに😂
何だろう? やっぱり年収4,000万男の恋愛話並にオモシロクナイナ
2025/09/03 06:109
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友情の賞味期限

西宮ことり

結婚するか、しないか。
子どもを持つか、持たないか。
キャリアを追い続けるか、それとも手放すか。

私たちは、人生の岐路に立つたびに選択を重ねてきた。
女性の場合、ライフステージに応じて人間関係も変化していく。
同じ境遇の人と親しくなることもあるが、それは一時的なつながりにすぎないことも多い。

何にも左右されない“女の友情”は、本当に存在するのだろうか。
それとも――友情にも「賞味期限」があるのだろうか。

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