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友情の賞味期限 Vol.3

「彼といても孤独は埋まらない」代理店勤務の29歳男にハマる37歳女の抱える闇

西宮ことり

「では、立ち上がって。脚はこぶし幅。最後にロールアップとロールダウンしていきましょう。一骨一骨丁寧に」

「また来週お願いします」と生徒が帰っていき、水を飲みながらひと息つくと、スタジオのガラス越しに六本木ヒルズが視界に入った。

あのビルの中で働いている人たちと同じように、このあと仕事の予定がビッシリと詰まっていることに気づき、無言で気合を入れ直す。

ふとスマホを見ると、由里子からLINEが入っていた。


『由里子:この間は久しぶりに会えて嬉しかった!都合が合えば、このイベントに一緒に行かない?愛梨ちゃんも好きそうだし、3人で』

メッセージには、URLも貼り付けられている。

数年前、あんなに仲が良かった由里子を避けてしまったのは私だ。それを彼女もわかっているはずなのに、先日の偶然の再会を機に連絡をくれた。

その懐が深いところは相変わらずだな、と思う。

再会できたのは嬉しいし、日を空けずに誘ってくれるのもありがたい。
けれど、正直、まだちょっと戸惑っている。

思えば、20代後半から30代前半まで、由里子とは毎週のように飲み歩いていた。中目黒からの恵比寿、西麻布からの六本木。話題の店はすぐに予約し、馴染みの店員がいるバーには必ず顔を出した。

だけど、由里子が結婚・妊娠したころから、関係は少しずつ変わっていった。


「今夜行ける?」そんな気軽な誘いはできなくなったし、実際彼女は誘っても来なくなった。最初は仕方ないと思っていたけれど、気づけばLINEの頻度も激減し、由里子のいない日常が当たり前のものになっていった。

その時感じたのは、寂しさや疎外感というよりは、言葉にできない“温度差”と焦りだった。

子どもが生まれた友人たちが集まる場に顔を出すと、話題は決まって「保育園や幼稚園のこと」「ワンオペの愚痴」「夫との家事分担」に集中する。

私はそのどれにも共感できないし、話に交ざる資格もないように思えた。

「ふぅ……」

ため息をついてスマホをバッグに入れる。LINEの返信は、今じゃなくてもいい。

この記事へのコメント

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No Name
人生は十人十色だし結婚して子供を育てている女性が大人でそうでない女性は未熟とかそんな事は全く無い。 でもまりかは彷徨うような気持ち?迷いや不安に向き合わず忙しくして誤魔化しているようにも読み取れた。 38歳ならまだギリ間に合うからもっと真剣に考えた方がいい。シングルを貫くと自信を持って強く決めた人でさえも、晩年になりパートナーも子供もいない事にひどく後悔するとよく聞くし。「今やるべき事」は自分の選択に100%自信を持てるか己と向き合う事なのに。
2025/08/27 05:4412
No Name
由里子が妊娠した頃も「今夜行ける?」と誘ってたけど実際由里子は来なかった? 当たり前じゃない?😂 つわりがひどかったらそれどころじゃないし、もし元気でも妊婦じゃお酒飲めないし。寂しさや疎外感の前にまりかは常識ないなと思ってしまった。
2025/08/27 05:269Comment Icon1
No Name
コンビニのアイスにポテチ、安っぽい女やな。
場所(家)も提供して、夜食も出してあげてるのに。
2025/08/27 06:039Comment Icon2
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友情の賞味期限

西宮ことり

結婚するか、しないか。
子どもを持つか、持たないか。
キャリアを追い続けるか、それとも手放すか。

私たちは、人生の岐路に立つたびに選択を重ねてきた。
女性の場合、ライフステージに応じて人間関係も変化していく。
同じ境遇の人と親しくなることもあるが、それは一時的なつながりにすぎないことも多い。

何にも左右されない“女の友情”は、本当に存在するのだろうか。
それとも――友情にも「賞味期限」があるのだろうか。

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