◆これまでのあらすじ
萌香(27)と正輝(30)は、付き合って3ヶ月。関係が深まってきたことを実感するなか、正輝から「親友に紹介したい」と言われる。しかし親友として紹介されたのは、まさかの女性・莉乃(30)だった。
性別を超えた大親友だという正輝と莉乃だが、「男女の友情は成立しない」という考えの萌香にとって、莉乃の存在は不安を掻き立てるものでしかなく…。
▶前回:「男女の間に友情なんて、あるわけない」疑心暗鬼になる彼女に、女の親友を紹介したら…
Vol.3 <正輝>
「あっつ〜…」
深夜0時近くだというのに、8月の東京はミストサウナのような熱気と湿気だ。
六本木の会社から麻布十番の自宅まで歩いて帰ってきたため、バーニーズのリネンシャツが汗で背中に張り付いてしまっている。
玄関に入るなりシャツのボタンを外し、ダイニングチェアの背に脱ぎ捨てる。
カバンも靴下も無造作に放置したまま低温のシャワーを浴びた俺は、やっとまともに呼吸ができるようになった喉にキンキンに冷えた缶ビールを流し込んだ。
「ふう…」
深呼吸する半裸の上半身を、窓から見える東京タワーが赤く照らす。
まだ部屋の電気もつけていないため、脱ぎ捨てたシャツも靴下も、カバンも、何もかもがほのかに赤く染められていた。
一人暮らしのいいところは、こんな自堕落な行為をとがめる人がいない気楽さかもしれない。
仕事のことも他人のことも気にせず無心で過ごすひとり時間が、俺はとても好きだった。
― でも、のんびりはしてられないな。
一息ついてようやくリビングの明かりをつけた俺は、床に落ちているカバンを拾い上げる。
そして中からスマホを取り出すと、リダイヤルの一番上にある番号に電話をかけた。
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