横で、博俊が寝ている。
「…今何時?7時10分か…よかった」
このまま出れば、会社には間に合う。
― 昨夜は…飲みすぎた。ひとりでいる現実から逃げたくて、ここまで来ちゃった。
急いでベッドから立ち上がろうとしたとき、私の右手を、ひんやりとした大きな手が包んだ。
「菜穂?おはよう」
「あ…おはよう」
博俊の寝起きの声が響く。
「…ねえ。彼氏と別れたって本当?」
「え…話したっけ」
「なんだ、覚えてないのか。言ってたよ。話しながら、ちょっと泣いてた」
私は、着ているバスローブを手で寄せて、胸元を隠す。
「本当だよ」
「…そっか。ならさ、菜穂。俺と一緒にいようよ。今は前と違って稼ぎもあるよ。俺もはやく結婚したいしちょうどいいじゃん」
― “ちょうどいい”は言えてるかもな。何流されそうになってるんだ私…。
「ごめん、そういうのはもうやめて」
私はシャワーを浴び軽く化粧をし、シワのついたブラウスに着替える。
もう会わない。そう決めて、慌てて部屋を出た。
― なんていう朝なんだ…。
いい大人なのに、こんな適当な展開を迎えてしまった。そんな自分に、とにかくうんざりしていた。
◆
「環境を大きく変えよう」
そう思い立ったのは、それから2ヶ月が経ったころだった。
逃げるように仕事に没頭してきたけれど、蒼人と同じ会社にい続けることに、居心地の悪さを感じてきたのだ。
出社をすれば、つい蒼人を探してしまう。
気まずくて会いたくない気持ちと、あの頃に戻りたい気持ちで、どうしても目が動いてしまう。
― この会社にいる以上、忘れられない。
それで、思い切って転職エージェントに相談。外資系のマーケティング会社に、好条件で採用してもらえることになったのだ。
新しい環境に身を置いてみて――私には、ひどく驚いたことがあった。
▶前回:半年記念日に、彼と一泊旅行。しかし、幸せな雰囲気が一変した“プレゼント”とは?
▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ
▶NEXT:8月6日 水曜更新予定
次回最終回。思い切って環境を変えた菜穂は、新しい局面に。
この記事へのコメント
そこのくだりが極めて雑でビックリ! 新しい会社に入って独身のイケメンが多くてひどく驚いたのかな? 最終話で新しく知り合った男とトントン拍子に結婚&ハッピーエンドならレベチでつまらないけど大丈夫かな。