A1:帰りたくなったので、次回への含みを持たせて切り上げた。
拓実と出会ったのは、女友達と飲んでいた時に誘われた会だった。私の友人が康二という人と知り合いで、向こうは男二人で飲んでいるという。
時刻は、23時。
行くかどうか少し迷ったけれど、良い出会いがあるかもしれない。それに男性陣が指摘してきた西麻布の会員制のバーは、行ってみたいお店でもあった。
興味本位から行ってみると、そこに康二と拓実がいた。
拓実は、あまり自分から積極的に話題をふるタイプではなかったが、その寡黙な感じに興味をそそられた。この日は25時くらいまでみんなで飲み、帰りは「方向が一緒だから」という理由で拓実が送ってくれることになった。
そしてもちろん、帰りのタクシーの中で誘われた。
「よければ、次は二人で飲みませんか?」
そもそも、「タクシーで送る」と言われた時点でなんとなくの想像はついていた。だからこちらも、想定内の返事をする。
「ぜひ!LINE交換しませんか?」
― あの西麻布の会員制のバーに行けるってことは…。
推定年収3,000万はある。いや、コンサル会社を自分でしていると言っているし、もっとあるかもしれない。
そしてすぐにデートをすることになったのだけれど、その期待を裏切ることなく、拓実は初デートで予約困難な、虎ノ門にある有名鮨店に連れていってくれた。
「今日、すっごく楽しみにしていたんです♡」
「店の場所がわかりにくいから」という理由で、店の外で待ってくれていた拓実。それに対して私も、ちゃんと小走りで拓実へ近づき、笑顔で「楽しみにしていた」と伝える…というパフォーマンスをやってみる。
もちろん拓実は嬉しそうにしてくれるし、相手に喜んでもらうことは、食事をご馳走してくれる男性へのある意味マナーだとも思っている。
私は、食事中も相手が喜びそうなツボを押さえながら会話をした。
「拓実さんは、普段こういう素敵なお店ばかり行かれるんですか?」
「毎日じゃないけど、頻度は高いかな」
「え〜そうなんですね。すごい!私もまた、どこかご一緒させていただきたいな…」
「もちろん!どこか行きたい店とかあるの?」
「そうじゃなくて。拓実さんと行けるなら、どんなお店でも嬉しいです♡」
するとわかりやすく、拓実の目尻が下がった。
34歳、独身経営者。女性慣れしているのかと思いきや、意外にそうでもないのかもしれない。
「本当に?そう言ってもらえると嬉しいけど…」
「あ。私、焼き鳥屋さんとかも好きなんです。キラキラした感じではなく、モクモク系の」
そしてこれも、私の中では鉄板の回答だった。
“高級店だけではなく、意外に庶民的なんです”アピールは、結構有効だから。
「そうなんだ!意外」
「香澄ちゃんと行きたい店、たくさんあって迷うな」
「じゃあ…一つ一つ、叶えていきましょうよ」
そんな意外に純粋な拓実とのデートは楽しくて、あっという間に時間が過ぎていく。誠実そうだし、私に対しての多少の好意も感じる。
― もう少し、知りたいな。
そう思った。だから2軒目も行きたいと思っていたが、意外にも遅くなり眠くもなってきた。
「時間、大丈夫?無理しなくていいからね」
さっきからスマホをチラチラと見る私に気を使ってくれる拓実。この人の良さを、無下にするわけにはいかない。
だから「早く帰りたい」とストレートに言わず、一応、相手を気遣って、含みを持たせて遠回しに「帰りたい」アピールをしてみた。
「拓実さんって素敵ですよね…もっと一緒にいたいなぁと思うんですけど」
「本当に?僕もなんだけど」
「さすがに今日は初デートだし、もう24時なので帰りますね。ただ次は、もう少し長く一緒にいれますか…?」
「もちろん」
そしてこの言葉通り、2回目のデートもすぐにやってきた。
この記事へのコメント
🤣嘘つかないでくれる、 二軒目行ったでしょう? 高級なお鮨屋に、何時に入店したかは知らないけど24時までいたらマジに迷惑極まりないよ。閉店時間過ぎてるのにいつまでいるんだって。拓実は一軒目もニ軒目も盛り上がったって昨日言ってたよ。