「確かに選んだのは私ですが、正直なことを言うと、TOUGH COOKIEっていうのは、いくつかの候補のうちの1つでしかなかったんです」
ともみは、光江に店名の候補を考えるようにと言われた時のことを思い出した。聞いていたのはこの店が“悩み苦しんでいる女性たちの話を聞く店”になるということだけ。
看板やロゴにしたときにかっこよく見えて、かつ、女性専用であることがわかりやすい店名を…と必死で調べて考えた候補の中には、花の名前もあったし、光江の“光”を使って“暗闇を照らす光”的意味を英語にしたものもあった。ともみは5つほどのアイディアを光江に渡したのだ。
「最終的に決めたのは、この店のオーナーの女性です。彼女が、私のアイディアのTOUGH COOKIE、に複数形のSをつけて、この店は“TOUGH COOKIES”になりました」
ともみの説明に、ルビーが、それ知らなかったなぁと驚いた。
「あえての複数形ってなんかいいよね。1人だと強くなれない時もあるけど、みんなでなら強くなれるし、支え合ってサバイブしようぜ!的な?」
シスターフッドって感じで良きよね~と言ったルビーに、桃子が感動しちゃいました、と答える。
― 支え合って…強くなるなんて。
ともみは今までの人生で一度も考えたことがなかった。
落ち込んで、傷ついて、たとえ全てを失ったとしても、自分の力で立ち上がる。他人のせいにせず、責任は自分でとる。その信念で強くなってきたし、これまで生き抜いてこれたのだと、ともみは今も信じている。でも。
― 誰かが強くなるための、場所。
光江が複数形をつけたその意味を、ともみは、今日はじめて、ほんの少しだけ理解できた気がした。
◆
「ルビー、今日、最初なんであんなに大人しかったの?というか、全体的に、なんかおかしかったよね?」
AYANOへのデザインができたら教えてね、と言ったルビーと連絡先を交換した桃子が帰った後に、店を片付けながらともみは聞いた。
洗いものをしていたルビーが、え~なんのことぉ?ととぼけたが、ともみは逃がさず続ける。
「いつものルビーなら、すぐに桃子さんの味方になったはずでしょ?なのに、今日はやたらと桃子さんを詰めたというか責めたというか。まあ途中から調子は戻ってたけど。それに、あの視線はなに?」
「んー?」
「私のこと、意味ありげに見たりしたでしょ?何回か」
確かあれは、桃子のことを騙した二股男…永井を、ルビーが、“肝心なことは何も言わない系オトコ”と表現し、“付き合おうとも恋人になろうとも、実は言われてないのでは?”と桃子に聞いたあとだ。
ルビーはなぜか、心配そうにともみを見たのだ。その視線の意味を教えて、と、ともみがもう一度問い詰めるように迫ると、ルビーがしぶしぶ、と言った感じで、それねぇ……と、あきらめたように答え始めた。
TOUGH COOKIES
港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが
その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。
そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。
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松本公子の件もだし次のお客様含めて先の展開が楽しみ!