367240154077345e7a6cedf75eaff3
TOUGH COOKIES Vol.15

「別れたほうがいい、とわかってるのに離れられない…」恋愛に不器用な女の共通点

TOUGH COOKIESのことなのか、大輝のことなのか。それとも、渡された名刺の主…松本公子とのことなのか。どこまでミチに見透かされているのだろうと、気恥ずかしくて落ち着かず、ともみは、ごまかすようにただ頭を下げてミチに背を向けた。


保冷バッグには、3種のカレーがそれぞれ2人前ずつ(つまり合計で6人前)と、白ご飯もサフランライスもナンも、それに合わせた確かに超大盛の量が入っていた。

ミチからの、今日はこれで満足しなさい、という伝言を聞いたルビーが、ほんっとミチ兄はアタシのことが大好きだよねぇ、と、いつものポジティブ解釈をしながら、賄い用の食器に手際よくカレーをとりわけていく。

それをカウンターではなく4人席のテーブルに並べると、ミチさんのカレーにはジントニックがよく合うけど、何飲みたい?と、客である水原桃子(29)に聞いた。

「ほんとに私までいいんでしょうか。お支払いとかは…?」

遠慮する桃子を、いいのいいの、これはアタシたちの賄いなんだから!と、テーブル席に移動させたルビーは、桃ちゃんもジントニックにしてみる?と強引に決めてしまった。

ってことでジントニック3つね♡、と半ば命令されたともみが苦笑いで従い、3人でカレーを食べ始める。

「ん~、相変わらず、うんまぁぁい♡ おいしいものって、ほんっと人を元気にするよねぇ…」

と、心から満足気なルビーに、桃子が同調し、驚いた様子で言った。

「私、マトンカレーってあんまり得意じゃなかったんですけど、これは…」

「でしょ?お肉は箸で崩れるくらいまで煮込んであるし、10種類くらいのスパイスが入れてあるらしいんだけど、それが羊肉のクセのある香りをただ消すんじゃなくて、お互いに高め合っちゃって香ばしくなってる感じ?でもガツンと辛くて。

これには、ジントニックが最高なのよ。あ~も~たまらん」

どんどんカレーを平らげながら、ごくごくとジントニックも飲み干していくルビーに、それアルコールだからね?と、ともみが突っ込むと桃子が笑った。

― よかった。

さっきまでの涙で桃子の目はまだ赤いけれど、その笑顔の屈託のなさに、ともみはホッとした。

「で、AYANOに着せるデザイン、もう思いついちゃったりしてる?どんな感じにしたいとか、もうあるの?」

ルビーの質問に1つ1つ、アイディアが止まらぬ様子で答え続ける桃子の瞳が、ゆっくりと希望に満ちていく。

「やっぱ桃ちゃんってマジで才能があるんだよ。デザインは盗めても、才能までは奪えないってことなんだよね~♡」

ともみも同調し、桃子への言葉を重ねた。

「あと、思い出も奪われない…ですよ」

恋した思い出は桃子のものだ。相手がどんなに悪い男でも、たとえどれだけ傷ついても、その恋の全てを否定するのは悲しすぎる。大切にしていい思い出もあるはずだから、と、ともみは先ほど桃子に伝えたことを、改めて、言葉にせず思った。

「やだ、どしたのぉ?ともみさんが今日はやたらとロマンティック~♡いいよいいよ、なんかとってもいいよぉ~」

からかうルビーに、ともみが言うんじゃなかったと顔を歪め、桃子が笑い声をあげた。

「今日、ここに来る前に、TOUGH COOKIEってどんな意味なんだろう、って調べたんです。そしたら、かわいらしい見た目だけど芯の強い女性、って意味があるって知って。めちゃくちゃ素敵だし、なんか、お2人にぴったりだなって今、すごく思うんですけど」

店名はともみさんが決められたんですか?と続けた桃子に、ともみは照れたように微笑んだ。

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
「なんかあれば話しに来いよ。聞くだけでいいならオレでも聞ける」もう、毎回セリフが男前でさりげなく優しいミチ♡
松本公子の件もだし次のお客様含めて先の展開が楽しみ!
2025/06/03 06:1928Comment Icon2
No Name
桃子の件に関しては、ともみ以上にルビーが親身になって考えてくれたんだなという印象だった。いつか、ルビーがお客側になって過去の闇を洗いざらい話す時が来るのかねぇ。確か親に虐待されて育ったとはどこかでちらっと出てきてたけれど。
2025/06/03 05:3021Comment Icon1
No Name
ルビーがいいやつすぎる。今の時点では人間的に成長しているのはともみより、ルビーということなのかな。ともみの成長と2人の友情が楽しみです!
2025/06/03 06:2417
もっと見る ( 11 件 )

TOUGH COOKIES

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

この連載の記事一覧