TOUGH COOKIESのことなのか、大輝のことなのか。それとも、渡された名刺の主…松本公子とのことなのか。どこまでミチに見透かされているのだろうと、気恥ずかしくて落ち着かず、ともみは、ごまかすようにただ頭を下げてミチに背を向けた。
保冷バッグには、3種のカレーがそれぞれ2人前ずつ(つまり合計で6人前)と、白ご飯もサフランライスもナンも、それに合わせた確かに超大盛の量が入っていた。
ミチからの、今日はこれで満足しなさい、という伝言を聞いたルビーが、ほんっとミチ兄はアタシのことが大好きだよねぇ、と、いつものポジティブ解釈をしながら、賄い用の食器に手際よくカレーをとりわけていく。
それをカウンターではなく4人席のテーブルに並べると、ミチさんのカレーにはジントニックがよく合うけど、何飲みたい?と、客である水原桃子(29)に聞いた。
「ほんとに私までいいんでしょうか。お支払いとかは…?」
遠慮する桃子を、いいのいいの、これはアタシたちの賄いなんだから!と、テーブル席に移動させたルビーは、桃ちゃんもジントニックにしてみる?と強引に決めてしまった。
ってことでジントニック3つね♡、と半ば命令されたともみが苦笑いで従い、3人でカレーを食べ始める。
「ん~、相変わらず、うんまぁぁい♡ おいしいものって、ほんっと人を元気にするよねぇ…」
と、心から満足気なルビーに、桃子が同調し、驚いた様子で言った。
「私、マトンカレーってあんまり得意じゃなかったんですけど、これは…」
「でしょ?お肉は箸で崩れるくらいまで煮込んであるし、10種類くらいのスパイスが入れてあるらしいんだけど、それが羊肉のクセのある香りをただ消すんじゃなくて、お互いに高め合っちゃって香ばしくなってる感じ?でもガツンと辛くて。
これには、ジントニックが最高なのよ。あ~も~たまらん」
どんどんカレーを平らげながら、ごくごくとジントニックも飲み干していくルビーに、それアルコールだからね?と、ともみが突っ込むと桃子が笑った。
― よかった。
さっきまでの涙で桃子の目はまだ赤いけれど、その笑顔の屈託のなさに、ともみはホッとした。
「で、AYANOに着せるデザイン、もう思いついちゃったりしてる?どんな感じにしたいとか、もうあるの?」
ルビーの質問に1つ1つ、アイディアが止まらぬ様子で答え続ける桃子の瞳が、ゆっくりと希望に満ちていく。
「やっぱ桃ちゃんってマジで才能があるんだよ。デザインは盗めても、才能までは奪えないってことなんだよね~♡」
ともみも同調し、桃子への言葉を重ねた。
「あと、思い出も奪われない…ですよ」
恋した思い出は桃子のものだ。相手がどんなに悪い男でも、たとえどれだけ傷ついても、その恋の全てを否定するのは悲しすぎる。大切にしていい思い出もあるはずだから、と、ともみは先ほど桃子に伝えたことを、改めて、言葉にせず思った。
「やだ、どしたのぉ?ともみさんが今日はやたらとロマンティック~♡いいよいいよ、なんかとってもいいよぉ~」
からかうルビーに、ともみが言うんじゃなかったと顔を歪め、桃子が笑い声をあげた。
「今日、ここに来る前に、TOUGH COOKIEってどんな意味なんだろう、って調べたんです。そしたら、かわいらしい見た目だけど芯の強い女性、って意味があるって知って。めちゃくちゃ素敵だし、なんか、お2人にぴったりだなって今、すごく思うんですけど」
店名はともみさんが決められたんですか?と続けた桃子に、ともみは照れたように微笑んだ。
この記事へのコメント
松本公子の件もだし次のお客様含めて先の展開が楽しみ!