男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:「妻はいるけど、夫婦関係が成り立っているかは別」経営者52歳のプライベートとは
Vol.4 恵比寿のテラス席、三日月の下で
コンサル勤務の32歳、真田悠也の場合
穴が開くほどじっと見つめていたエレベーターが、やっと開いた時。
僕は思わず「うわっ」と小さな悲鳴をあげてしまった。
「やだ、どうしたの?真田くん」
開いたエレベーターの中にいた美玖子さんが、おかしそうにクスッと笑った。
― あぁ…。やっぱり、かわいい。
美玖子さんの目は、笑うと三日月みたいに細くなる。その顔がすごく可愛らしくて、何度でもドキッとさせられてしまうのだ。
僕は32歳。美玖子さんは、7歳年上。
40歳手前の女性に「可愛らしい」なんて感想を抱くのは失礼かもしれないけれど、仕方がない。
だって美玖子さんは僕にとっては、会社の先輩であると同時に、新卒で入社して以来ずっと片想いしている相手でもあるのだから。
こうしてエレベーターの扉をじっと見つめていたのも、美玖子さんのことが好きだからだ。
会社設立15周年を祝うパーティーだというのに、好きな女性が社長と一緒にひっそりと会場を抜けていく姿を見てしまっては、気が気でない。
― 美玖子さん、もしかして社長と…?
後を追ってみようかどうしようか悶々とし続けながら、エレベーターの前に立ち尽くすこと、約10分。
迷っている間に戻ってきた美玖子さんの顔はケロッとしていて、社長との間に何があったのかは、僕には読み取れなかった。
そんな自分が情けなくてもどかしくて、僕はその後も結局パーティーを楽しむどころではなくなってしまったのだった。
この記事へのコメント
なんかゆるくない? もっとアルデンテが良かったよ。
ただ美玖子は止めておく方がいいかなと。