港区のマンションで暮らす、大手保険会社営業・陸斗(33)。
妻の綾乃(30)との結婚1周年の記念日を、先月迎えたばかりだ。
綾乃は、広告代理店の営業職。互いに若くして活躍する敏腕営業でいわゆる「パワーカップル」の2人は、ある深刻な悩みを抱えていた。
それは、忙しいあまり、結婚1年目から関係がギスギスしていること。
そんな状態を改善しようと、陸斗は、結婚1周年の記念日に“あるモノ”を購入することを思いついた。余裕のある暮らしのために、新しく迎えたモノとは――。
陸斗「結婚して1年。不安を覚えたこともあったけど」
「ああ、陸斗がいれてくれたコーヒー、美味しいわ」
春らしい気温が心地良い、日曜日の10時過ぎ。妻の綾乃が、ゆったりとした仕草でマグカップに口をつける。
「ねえ、陸斗。今日映画行く前に、ランチしていかない?あと、春っぽいワンピースも買いに行きたい」
「おお、いいね」
― ふたりでこんな休日を過ごせるようになって、本当によかったな。
綾乃とは、交際して丸2年が経ったタイミングで入籍した。
食事会で出会ったときに一目惚れした、凛とした笑顔。何事にもパワフルに向き合う誠実さ。
尊敬できる彼女ともっと一緒にいたいと願い、明るい将来を胸に描いていた。
だけど――と陸斗は、この1年を振り返る。
念願の新婚生活は、想像していたような甘いものではなかった。
お互いに連日激務で、遅くまでの会食が頻繁にある。
仕事だけで精一杯な日々に、掃除や洗濯などのタスクが重なり、一息つく時間もなくイライラするようになった。
休日も、気が休まらない。外回りの営業職で、身だしなみや清潔感を重要視する僕らは、クリーニング店や美容院に行くなど、休日は服や自分のメンテナンスもしなくてはならないからだ。
まともにデートもできず、コミュニケーションも最低限しか取らず。
ストレスから、些細なことでぶつかり合って、結婚1年目が終わった。
― せっかく結婚したのに…こんな状態が続いていいはずがないよな。
そこで僕は先月、綾乃にあることを提案したのだった。
「最近、毎週末お出かけできてうれしいね」
綾乃の楽しそうな声で、我に返る。
「あれを買って、ホントによかったよね」
そう言って、綾乃が視線を移したのは――。