2025.04.03
TOUGH COOKIES Vol.7宝とは大輝がこの西麻布で出会った親友で、今は2つ星レストランの有名シェフと結婚しパリで暮らしている女性だ。大輝が宝に告白してフラれたという話も、この店ではまた周知の事実なのだが。
「そんなことはわかってるよ。宝ちゃんに対してのアンタの情は…アタシには全く恋愛には見えなかったからね。生まれて初めて眩しいものを見た衝動でその光に惹きつけられちゃって舞い上がった感じだったじゃないか。保護欲みたいなもんだろ。
その光がたまたま異性だったから恋愛と勘違いした。それにアンタも気がついたからこそ、今は胸を張って親友だと呼べてるんだろうに」
「…光江さん、もうやめてくれない?」
当時の自分の混乱を、こうも明確に言語化されてしまうのは…と大輝は恥ずかしくなり、そして珍しく、ほんの少しだけバツが悪そうな表情で続けた。
「でも、ともみちゃんにも伝えてありますよ」
「なにをだい?」
「オレがある人にフラれて…失恋したから、ともみちゃんの誘いにのったこと」
ある人って宝ちゃんじゃないですよと笑う大輝に寂しさがよぎったのを、光江は気づかぬふりをして聞いた。
「ともみはそれでもいいといったんだろ?」
「…そうですけど」
「ならいいじゃないか。繰り返すけどアタシは責めてるわけじゃない。アンタの質問に答えてるだけさ」
光江がグイっと飲み干したグラスに、店長がソーテルヌをつぎ足す。そのグラスをくるくるとまわし、蜜の甘さを持つ黄金色を愛でたあと、光江の瞳がじっと大輝を捉えた。
「その失った恋とやらは、アンタにとって本気の恋だった?」
虚を衝かれたように一瞬固まったあと、大輝はふにゃりと困った笑顔になった。
「はい、間違いなく」
「本気でその人を愛してた?」
「愛していました」
「じゃあ、ともみのことは?」
「…それは…」
「ともみのことは本気とは言えないだろ?」
言葉を出せない大輝を、ウソがつけない男でかわいいねぇ、と光江がからかう。
「そういうともみだからこそ店長にしたんだよ。希望を込めてね」
「…どういうこと…?」
「答え合わせは…そうだね、このワインが空くまでなら付き合うよ」
そう言うと光江はすでに中身が半分ほどになったボトルを指さした。アルコールに強くない大輝は3杯でほんのりと酔いが回り、その夜は光江の謎かけの答えにたどり着けぬまま。
次にアタシと会う時までに答えを出してきな、と光江に宿題を出されてSneetを去ることになったのだった。
◆
「うれしそうですね、ボス」
普段口数の少ない店長のミチが光江をボスと呼ぶ時はいつも、そこにからかいのニュアンスが含まれている。
「うれしい誤算だよ。大輝がともみを揺さぶってくれるのがね」
大輝が去った後、空になったソーテルヌのボトルを手にして眺めていた光江は、それを置くとジントニックを頼み、さりげなく店内を見渡した。
閉店間近で、残りの客は2組。30代と思われる同世代カップルと、女性がかなり年上と思われる年の差カップル。こちらはおそらく不倫だろうと光江の勘が働く。
ジントニックが光江の前に置かれたとほぼ同時に、流れる曲が変わった。
― Here's To Life(ヒアーズ トゥ ライフ)
アメリカの女性ジャズシンガー、シャーリー・ホーンが、“自分の人生には不満も後悔もない”としっとりと歌い上げる名曲だ。
この曲が発売されたのは歌い手であるシャーリーが60歳になろうとしていたときだったっけ、と光江は記憶をたぐりよせる。
『過去が正解だったのか、明日がどうなるのか、その答えは誰にもわからないのだから悔やみ怯えても仕方がない。だから私は1日1日を慈しみ笑って楽しむ。そうすれば、人生というゲームを、ただ愛のために進んで行くことができるのだ』
自己流和訳に脳内で変換しながら、光江はその歌詞に自分を重ねる。
― 過去を悔やんで未来に怯えるなんて感覚は、アタシも…とうの昔に忘れちゃってるからねぇ。でも。
ともみを思いながら、光江はジントニックを口にする。
― ともみ、アンタが忘れるにはまだ早いし、逃げるのもダメだ。後悔だろうが怯えだろうが、アンタを揺さぶるものから目を背けるな。今度こそ、ね。
雄大&愛さんが入籍間近なのと宝ちゃんはやっぱり既に結婚していた情報はアオハルファンとして嬉しい限り :) 大輝はあの人妻にフラれちゃったのね....別連載だけど何があったのか気になってしまう。
あの高貴な甘さが飲み手を魅了する素晴らしいワイン!
そしてともみは大輝の事を本気で好きになってしまったんだね。でもなんとなく最後二人は上手くいきそうな気もするけれど.....
一日一日を慈しむ🥹私も光江さんに、人生を相談したい!!
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