「幸せそうな彼女がなぜ？」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…

「私たち芸能人って世間の声で価値が決まる商品だし、特に最近は世間の声がスポンサーに影響を与えて配役が変わることも多いでしょう。だから世間に嫌われたら仕事を干される。で、そのうち忘れ去られる…という強制終了からの引退って流れですよね？」

ともみに向けられた疑問形の語尾を「ちょっと待って」と奪ったルビーは、自分の携帯を取り出してカウンターを滑らせ、みず穂の方へ差し出した。

「世間の声ってまさかこれのこと言ってんの？」

画面に視線を落としたみず穂が小さく笑って、その画面をゆっくりとスクロールしていく。

『裏アカが発覚し大炎上した女優・東条みず穂。賠償金は5億円以上とのウワサの中、独占取材！スタッフへのパワハラ疑惑も浮上し、近しい関係者が暴露した清楚系人気女優の恐ろしい裏の顔とは？』

数時間前、ともみもルビーに見せられた、煽情的なタイトルが付けられた週刊誌の記事だ。

【清楚系がパワハラ女王とか漫画みたいな展開じゃん。裏切られたわ～】
【裏切られたっていってるやつらバカなの？汚い世界で生きる芸能人なんて全員クソに決まってんだろ】
【裏アカ暴いた人、マジ優秀リスペクト。ビッチの本性丸裸でカワイソｗｗｗ】
【ハイ人生終了。生意気ブスざまあ、乙】

そして記事に対するコメントは、まるで感染力の強いウイルスが広がるように、その勢いを止めることなく増え続けているようだった。

「そう、まさにこれが今の私に対するリアルな世間の声ってやつですよね。そしてこの、人生終了、ってコメントの通りに私の未来が進んでいるっていう」

みず穂は、グラスに残っていたマッカランを勢いよく飲み干し、同じものをと注文した。

一気に飲む量ではなかったのに全く表情を変えない彼女は、きっと酒に強い。

― 酔えないって、悲劇でもあるな。

ともみがマッカランのロックのための氷を削り始めたその音の中で、「ちょっとアタシの友達の話していい？」とルビーが珍しく静かなトーンで言った。

「アタシのギャル友のキラキラ系インフルエンサーの子がさ、SNSに来るしつこい悪質コメントに悩んで弁護士さんに頼んで情報開示の手続きをとったの。

そしたらその悪質コメントの犯人がね…大企業の…なんだっけ、チューカンカンリショクってやつ？のおじさんで、会社では優しくて真面目な上司として好かれてる人だったり、子育てのことを毎日SNSにアップするような、子ども大好き！っていう愛に溢れたキャラのお母さんだったりしたんだって。

まさかこの人が悪質コメントをするなんて…っていう感じで実際の生活とのギャップがエグすぎたらしいんだけど、そんな人達がいざ自分の身元が突き止められたら、泣いて謝ったらしいんだよね。

毎日のイライラが溜まってそれをぶつけてしまった、みんなが書き込んでたからノリで、軽い気持ちで書きこんだけ、そんなに傷つけるなんて思ってもみなかった、なのに、訴えられたりしたら周囲の人にもバレることになるから困る、だから許して欲しいって。

バレたら困るって泣くクセに、匿名となると平気で人の悪口を書き込み傷つける。そんな汚いやつらが書くことが世間の声になっちゃダメだし、そいつらに誰かの人生を終わらせる権利なんてあるわけないんだから」

ギャル友への思いとみず穂への思いが絡み合って熱くなったルビーが「ああ、のどが渇きまくる！」と、またも自分で生ビールを注ぐために立ち上がった。今夜は何杯飲む気だという突っ込みを抑えてともみは言った。

「東条さん、ルビーの話をどう思いました？」

「…え？」

「ルビーの話はド正論で、正義感でいっぱいで真っすぐで。東条さんには耳が痛い話だったんじゃないかなと思ったんですけど」