TOUGH COOKIES Vol.3

「友人の結婚式でスピーチなんてしたくない…」32歳女の誰にも言えない本音とは

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。

▶前回:32歳女が、抱える秘密。高校時代からの親友に言えずにいる「あの夜」のこととは


Customer 1:富崎小春(とみさきこはる・32歳)【親友の恋人を愛した女】


「店長さんは、誰かの結婚式に…出たくないなって思ったことはありますか?」

客である富崎小春にそう聞かれた店長のともみは、ないですね、とだけ短く返した。

ただし正確には、“女友達がゼロなので結婚式なんて招待されたことすらない”というのがともみ・28歳のリアルだが、小春は、普通はそうですよね、と自分を責める口調で続けた。

「私は今日…逃げたいと思ってしまったんです。大好きな先輩の結婚式なのに…」

数時間前に小春を親友と呼んでくれる結衣からかかってきた電話。『結婚式の日取りを決めたいんだけど小春には親友としてスピーチをお願いしたいの。だから小春の都合も聞きたくて』と、式の候補日として数日を提示されたのだ。

結衣が長年の恋人である良太のプロポーズにイエスと言ってからまだ2週間ほどしかたっていないのに、もう結婚式の日取りの話とは。良太が早く入籍したい、結婚式の日取りも決めたいってはしゃいじゃって困るの、と言いつつ結衣の声はうれしそうだった。

なんとか平静を装い「スケジュールを確認してまた連絡するね」と電話を切った瞬間、小春は、もうこれ以上はダメだと震えた。

結衣に対する裏切り、後悔、罪悪感、そしてきっと未練。それらにどう決着をつければ…と感情がぐちゃぐちゃになったとき、この店のことを思い出したのだ。

「ショップカードに…一歩踏み出したいとき、あなたの決断をお手伝いしますって…」

書いてあったのは本当ですか?…と小春が続けようとしたとき、あっ!と声がした。声の主は、小春が座るカウンター席の逆端でグラスを磨いていた、フワフワとしたパーマヘアを一つにまとめたもう一人の店員だった。

店長と小春の視線を受けた彼女は、てへっ、という感じの笑顔で続けた。

「お話始まっちゃったところで申し訳ないんですけど、店長、お客様に契約書をお見せしないと。まだですよね。取ってきます?」

― 契約書…?

頭にハテナが浮かんだ小春をよそに、店長はハッとした顔になり、ごめんルビー、お願いしてもいい?と言った。

この女性はルビーさんという名前なのか…などと小春が思っている間に、その“ルビーさん”は店の奥の部屋に消え、何かを手にして戻ってきた。

手にしていたのはクリアファイルで、それを受け取った店長が、その中から数枚の紙を取り出した。

「こちらを見ていただけますか」

カウンターの上を滑らせるように、小春に差し出されたそれは。

「…秘密…保持契約書…?」

驚いた小春のその呟きに、はい、と答えて店長は続けた。

この記事へのコメント

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No Name
確かに、披露宴に出席して幸せに満ち溢れる二人の姿を見たら心から祝福したい気持ちになると思うし、罪悪感も消えて小春自身も前に進めると思う。スピーチは人前で喋るの苦手で…とか理由つけて断ってもいい!
2025/03/06 05:3021返信1件
No Name
小春としては裏切ってしまった自分が出席してもいいものか...とは言っているものの、実際は良太への気持ちがまだ残っていて辛いと言うことだと思った。ともみはカミングアウトして二人の関係を崩す必要はないと助言してたけど。
2025/03/06 05:3718返信1件
No Name
悪役になるにも才能がいる、という言葉、刺さりました。本当に彼が欲しかったなら先輩に嫌われて最悪な女になってでも、という覚悟が小春には足りず、みんなに良い顔をしたまま未練を引きずったってことなのでしょうか
2025/03/06 06:1617
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