1LDKの彼方 Vol.11

結婚願望がない彼氏と迎えた、30歳の誕生日。女がショックを受けた“ある理由”

◆前回までのあらすじ

人一倍結婚願望が強い明里は、年下の彼氏・亮太郎(27)と同棲中。

30歳までに結婚したいと思っていたが、亮太郎からは「今は全然考えられない」と言われてしまい…。

▶前回:29歳彼女と同棲しているのに、将来を考えていない男。結婚を迫られた彼がとった言動とは


Vol.11 コンペティション<明里>


久しぶりに袖を通したセオリーのジャケットが、すこしきつく感じる。

― 太った?そんなことないよね。

体重は変わっていないはずだから、きっと着慣れないだけなのだとは思う。

いつもは在宅で仕事をこなすことが多いから、あまりタイトな服を着る機会はないのだ。

それなのに今日、こうしてかっちりとジャケットを着込んで目黒のオフィスビルまで来ているのは、共同経営者の菜奈と揃って取材を受けるためだった。

広くベンチャー企業を取り上げるWebマガジンからの、20代のうちに起業することをテーマにした、若手経営者同士の対談の依頼。

お邪魔した編集部の会議室には昼過ぎからこもり始めて、ちょうど1時間くらいが経っていた。

「──なるほど。若いからこそ、勢いに任せて行動できたところもあった…と。そう島田さんはお考えなわけですね」

「そうですね。若気の至りってやつですよ」

ライターさんからの質問に快活に笑いながら答える男性は、やはり私と菜奈と同じ、ベンチャー企業の若手経営者だ。

私たちの対談相手・島田俊さん。廃材を利用した特殊繊維の会社を営んでいて、学生のうちに起業した人なのだという。

話すのが得意な菜奈だけと盛り上がるのではなく、私の方にも程よく話題を振ってくれたりする島田さんは、初対面だというのに親しみやすい印象で、話も面白く話題が尽きることがない。

だけど私はそんな島田さんとの対談中も、内心全く集中しきれずにいるのだった。

― 若手経営者…かぁ。私、もう先週で30歳になっちゃったけど、まだ“若手”って言ってていいのかな?

集中できず、自虐めいた考えが頭をもたげるのは、きつく感じるジャケットのせいじゃない。

ましてや先日、ついに三十路の大台に乗ってしまったから、というわけでもない。

先月の同窓会のあと…。

亮太郎が、私との結婚について真剣に考えていないと知ったショックが、思いのほか後を引いているからに他ならなかった。

この記事へのコメント

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No Name
結婚視野にいれて同棲を始めたのに、結婚は考えてないとストレートに言われたらそりゃショックでしょう。 時間を無駄にしたくないし別れを選ぶ女性も少なくないはず。
涼太郎側もでっかい秘密を抱えてるようだし気分転換に島田さんとお食事する位全然いいと思っちゃう。
2025/03/03 05:3732
No Name
島田さんいいと思う!少なくとも涼太郎よりは...
2025/03/03 05:2429返信1件
No Name
今は結婚なんて考えられない まで言われたらもう明里の方からは何もアクションを起こせないと言うか、将来の話でさえNGなように感じてしまう、そんな気持ちはよく分かります。 個人的にはクリスマスに涼太郎からするだろうプロポーズを断って島田さんとハッピーエンドの方が明里にとっては良き選択かと思います。
2025/03/03 05:4219返信1件
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