TOUGH COOKIES Vol.2

「実は彼と…」32歳女が、抱える秘密。高校時代からの親友に言えずにいる“あの夜”のこと

「アンタのその感覚が、悩める女子たちには、必要なんじゃないかと思うんだよね。それに…人を裏切り裏切られ、夢破れてどん底を経験したアンタに…この店を任せてみたいと思ったんだよ」

「…でも私は…女子と話すのは」

得意とはいえないので…と伝えようとしたともみを光江が遮る。

「アタシはこの2年間ずっとSneetで働くともみを見てきたわけだけど、今のアンタなら面白い店にしてくれる気がしてるのさ。だから今回はこのババアはでしゃばらずに…ともみ店長のお手並み拝見、といきたいんだけど、どうだい?」

しばし茫然としたともみに、でもまあ、結果が出せなきゃクビだけどね、と光江は笑った。

Customer 1:富崎小春(とみさきこはる・32歳)【許されない恋を捨てられない女】


西麻布の交差点から外苑西通り沿いを青山方向へ徒歩で3分程、そのあと中華料理屋の角を左折して…と、ついさっき電話で説明を受けた通りの道順で、富崎小春(とみさきこはる・32歳)はそのBARを目指していた。

心臓がバクンバクンとうるさいのは、慣れない街の喧噪のせいだけではないことはわかっている。緊張と勢いのままに早足で歩き続けて路地に入り、細い道の突き当たりがどうやら目的地のようだった。

窓のないコンクリート造りの壁に蔦が絡まった低層ビル。そのエントランスで恐る恐る…401のインターフォンを押し名前を名乗った。

「富崎小春さまですね。お待ちしておりました。今鍵を開けますので、エレベーターで4Fまでお越しください」

優しい声に教えられた通りエレベーターに乗り4Fで降りると、そこは小さな…オフホワイトの壁色を基調にした踊り場のような空間で、ドアが1つだけ。

そのドアの横の壁には、ピンクのネオンライトの文字でデザインされた【BAR TOUGH COOKIES】の看板が。

女性専用、女性客しか入れないBARだと聞いて小春はやってきたのだけれど、今まで1人でBARに行くなど考えたことすらなかった彼女が、今夜1人でここを訪れたそのわけは。


【心が壊れそうな夜。踏み出す勇気が欲しい夜。そんな夜には当店へ。あなたの決断をお手伝いします】

店のHPに書かれていたこのメッセージに強く惹かれたからだった。

ドアの横にあったインターフォンのボタンを押して名乗ると、鍵が開く音と共にどうぞという声が聞こえて、ドアノブを回す。

引いた扉が見た目より随分軽かったせいで、勢いよくドアが開いてしまい小春は恥ずかしくなりながら中へ入った。

「いらっしゃいませ」

歩み寄って迎えてくれたのは髪を一つに束ね、黒ぶちのメガネをかけた小柄な女性だった。白シャツに黒いベストとパンツ、腰から下だけのエプロンを巻いた彼女について行く形で小春は店内を進み、促されるままにカウンター席の一番端に座った。

― 思っていたより…。

この記事へのコメント

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No Name
すごい読み応え!!!
2025/02/27 05:2514
No Name
確かに。夢破れてドン底人生を味わった人の方が悩める女子たちに寄り添って親身に相談を聞いてくれると思う! 下手に、願えば何でも叶うよとか過度なポジティブ思考で苦労を知らない人よりも。やっぱり光江さん「人を見る目」に長けてるなぁ。
予想通りゲスト第一号は小春なんだ…。
2025/02/27 05:2614
No Name
毎月決まった額を支払ってくれる芸能事務所の社長もいい人だね。 問題起こしてCM等全てを降板した女優に、どうして彼女の苦しみに気づいてやれなかったんだろうって。現実では事務所を解雇して終わりなケースも多いけど。
2025/02/27 06:5911
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