運命なんて、今さら Vol.9

彼と初めての夜デート。22時半、「まだ帰りたくない」と思った28歳女は…

「そう思うよ。だから僕、結海さんのことが心配になって食事に誘ったんだ。出会って2ヶ月以上経つし、もういい加減、お互いの言葉でまっすぐに状況を話してみようと思って。それが明日だ」

華は炭酸水をごくごくと飲み、ペットボトルをテーブルに置く。

「いいね。聞かないとわからないことなんて山ほどあるんだから、直接話したほうがいいよ」

「だよな」

「伝えたいことを言わないで、相手のことをひっそり思ってるなんて、ムダだもん」

華は「もう告白しちゃえばいいんだよ」と言って、立ち上がる。

リビングのドアノブに手をかけながら振り返り、「だって、無難な道ばっか選んでると、のっぺりした人生になるよ」と言った。

「わかってる」

「んじゃ、お兄様のベッドで寝ます。あと、こういうの全部、洗面所に置かせてもらうね」

化粧水やらクリームやらを寿人に見せ、華はリビングを出ていく。直後「シーツと枕カバー替えたよね?」と声がした。

「うん、替えました」

「どうも〜」

華の声が、遠くなる。

「…占領されたか」

寿人は革張りのソファに横になって、結海とのLINEを開いた。

『結海:お会いできるの、楽しみにしています』

この歳になって、トーク画面を開いてニヤニヤするような日が来るとは思わなかった。


「え、なんで…。本当にすみません」

「いやいや、結海さんは何も悪くないですって」

待ち合わせ当日。

寿人は、目黒にあるシチリア料理のお店に、結海を連れてきた。ウニのパスタが美味しく、サブちゃんと何度も来ているレストランだ。

― 結海さんがいる…。夢のようだな。

大げさなようだが、半個室で2人きりになった途端、寿人は本当にそう思った。

その彼女が今、ワイングラスを片手に静止し、目を丸くしてこちらを見ている。

乾杯後、すぐに結海の元カレ・研哉が訪ねてきた話を出してしまったのはさすがに早すぎたと、寿人は後悔する。

「…あの人は、寿人さんに何か言いましたか?」

「表向きは、本当に税理士相談をしてくれたんだけど、帰り際にちょっと」

「ちょっと?」

「『結海の、新しい男ですよね?』とか、『あいつと、仲良くしてるんですよね?』とか」

あのなんとも言えない恐怖心は、3日経った今も鮮明によみがえる。

でも、気にしていない、というふうを装いたくて、寿人はあえて小さく笑みを浮かべた。

「結海さんのスマホを見たらしいですよ。それで僕の名前を知って、検索して、事務所のホームページにたどり着いたんでしょう」

「…すみません。私の管理が甘かったせいですよね。大切なお仕事の時間を邪魔してしまいました」

深々と頭を下げる結海に、寿人は言う。

「あの、結海さんは、彼とのこと…大丈夫ですか?なんかちょっと、威圧感があって、僕でも怖かったから」

彼は、結海には優しいのかもしれない、そう思いながらも聞いてみると、結海は「はい」とだけ言った。そして目に涙を浮べる。


「…怖い人で。寿人さんにも怖い思いさせて、ごめんなさい」

「いや…」

結海は、これまでのことを話してくれた。

大学で出会った研哉が、社長になって変わったこと。実家のパン屋のサポートを頼んだら、見下してくるようになったこと。別れ話をした12月以来、祖母と仲が良いことを持ち出して脅してきたり、きつい言葉をぶつけてきたりなど、圧力をかけてきたこと。

そのあんまりなふるまいを聞いて、寿人は、自分の中にめずらしく荒い感情が巻き起こっているのを感じた。

― 最低なやつだ。

やっぱり、怖い思いをしていたのか。結海さんは、そんなやつとは、縁を切ったらいい。

「で、縁を切りました。やっと」

「え?」

この記事へのコメント

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No Name
結海は不思議ちゃんと言うか、時々言動が変だよね。
今日は二人でイタリアン食べただけ。相変わらずのスローテンポ!
2025/03/05 05:1715
No Name
今夜は帰りたくないと行っても、昨日から妹が家に来てベッドルーム占領してて邪魔だから 結海の家に行くしか選択肢ない気がするけど。
そこで研哉が待ち伏せしてて修羅場?
2025/03/05 05:2712返信1件
No Name
家行ったとき妹の置いて行った化粧品とか勘違いすなよ
2025/03/05 05:307返信2件
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