運命なんて、今さら Vol.7

「元カレと縁を切れない…」家を訪ねてくる彼を拒否できない28歳女は、ついに…

― ああ、伝わったんだ。やっと。

そうか、こうやって言えばいいんだと結海は思う。

怖くて息がつまる彼氏には、もう愛してないと言えばいい。

それと同じように、多すぎる業務を平然と振ってくる上司には、さすがに無理があると言えばいい。

土日にパン屋の手伝いをガッツリ任せてくる両親には、このままでは体が持たないと言えばいい。

不思議なほど惹かれている相手には、一緒にいたいと言えばいい。

「本音を伝える」というシンプルなことができないせいで、こんなにヘトヘトな人生になってしまったのだと思った。

― いい加減、変わらなくちゃ。

まだ温かく湿っているバスローブを拾い上げながら、結海はそう心に決める。

《寿人SIDE》


「うわ、あと30分か」

スケジューラーからの「30分前」という通知に、寿人は、数字がびっしりと書かれたPC画面から顔を上げる。

自宅マンションから徒歩2分。青山の一角に構える小さな税理士事務所は、今年も年度末の繁忙期を迎えていた。

この時期は、毎年担当している顧客で手一杯だ。だが、金銭的にのびのびした生活を守りたい寿人は、今も積極的に、新規の相談を受け付けている。

その無料相談の申し込みが、14時から入っていた。


「今日の顧客は…廣崎研哉さん。上智大学を出て、すぐに自分で広告代理店を立ち上げて…。まだ28歳。すごい人だよな」

寿人は、昨晩みっちり調べた「廣崎研哉」の情報をざっとおさらいしてから、洗面台のあるスペースに移動した。

鏡を見ると、連日の疲労のせいで、目の下にクマができている。忙しくても追い詰めすぎないのが寿人の基本姿勢だが、この時期ばかりはそうもいかないのだ。

― 疲れたな…。でも、結海さんなんて、僕の何倍も頑張ってるんだもんな。

サブちゃんが突然勝手に結海に電話をかけたのが、一昨日の夜。寿人は、久々に彼女の声を聞いだだけで、本当に元気が出た。

― 結海さんの家に例の彼が出入りしてるのは…正直がっかりしたけど。

ピンポンという音とともに電話を切った結海を思い出す。彼女は自分を雑にキープしているのかもしれない。寿人は正直、ちょっと失望していた。

― でも、それならそれで構わない…と思うのは、下手に出すぎているかな。

決定的な言葉を言わず、結海の顔色ばかりうかがっている今の自分。妹の華に「情けない」と鼻で笑われてしまいそうだと寿人は思った。

― ダメだ、切り替えよう。契約してもらえるように、無料相談を頑張らないと。

髪を整え、ジャケットを羽織る。


― 気が合いそう、信頼できそうって思っていただけたらいいのだけれど。

ホームページに映っていた「廣崎研哉」は、筋肉が程よくついた長身で、端正な顔立ちで、決断力に満ちた感じのかっこいい男性だった。

― 年下なのにあんなに活躍してるなんて、尊敬するなあ。萎縮しないようにしないとな。

無料相談用の書類と、お茶や温かいコーヒーを用意し、木製のテーブルの上にきれいに並べた。

そして、緊張と、憧憬を感じながら、寿人は「廣崎研哉」の登場を待つ。


▶前回:気になる女性との通話中に聞こえた“あの音”。32歳男はガッカリしてしまい…

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:2月26日 水曜更新予定
どうしてか、寿人のもとにやってきた研哉。その目的は?

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この記事へのコメント

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No Name
展開がスロー過ぎて疲れる。 研哉の酷さからそう簡単には引き下がらないだろうと思わせておいて「愛してない」と冷たく言ったら即撤収してくれた? やっぱり言いなりになっていた結海も悪かったと改めて思ったけど、研哉はまだ諦めてないよね....
2025/02/19 05:1821
No Name
この調子だと研哉とのいざこざをダラダラと最終話まで引っ張るのか.... 無料相談はマウントと嫌がらせだろうと簡単に想像できる。
2025/02/19 06:1021
No Name
Netflixの韓国ドラマでよくあるような、元カノの新しく好きになった男に近付いて邪魔をする的な展開? そもそも結海のキャラが無理なのでもうどうでもいい。
2025/02/19 05:2416
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