運命なんて、今さら Vol.6

気になる女性との通話中に聞こえた“あの音”。32歳男はガッカリしてしまい…

《結海SIDE》


「ちょっと、そこで待ってて。タオル持ってくるから」

結海は、うんざりしながら洗面所へ行き、薄桃色のバスタオルを1枚手に取る。

研哉が連絡なしに訪ねてくるのは、この2週間で5回目だ。

今までは頑なにオートロックを開けなかったが、今日の研哉は雨でビショビショだったから、放っておけなかった。

「はい、これで拭いて。拭いたら帰って」

「…俺のタオルは?そこから出してよ」

「……」

結海は、玄関をふさぐように置いてある段ボール2箱をにらむ。先々週、研哉の荷物をまとめて研哉のマンションに送ったはずが、翌々日にそのまま送り返されてきていた。

「研哉さ、返送してこないでよ。受け取らないなら、処分する」

「俺は別れたこと…まだ納得してないよ」

「え?」

「去年の12月に急に別れ話をされたときは、混乱して『わかった』って言ったけど、全然理解できない。それを言いに来た」

― やっぱり部屋に入れるんじゃなかった。

研哉は、こんな雨の日を狙って、わざとビショビショに濡れてやってきたのだろう。同情を誘うために。

結海は、めまいがしてきて、リビングへと逃げ込んだ。


ソファの上で体育座りをして、膝の上に額をつける。帰ってと言ったのに、研哉が勝手にシャワーを浴びている音が聞こえる。

たった数分前、寿人さんから電話がきて、結海は本当に嬉しかった。なのに、その余韻はもう消え去ってしまった。

「なあ、結海!おい」

しばらく経って浴室から叫ばれたぶっきらぼうな声に、体が固くなる。

「結海ー!段ボールの中から、俺のバスローブとって!」

「…は、はい」

あわてて立ち上がり、送り返されてきた研哉の荷物を再び開封する。バスローブを取り出しながら、結海は涙が出てきた。

研哉への怒りと、結局彼にしたがってしまう自分への怒りが入り交じる。

「はい、どうぞ」

浴室の前で、バスローブを届ける。研哉はそれをすぐに羽織ると、湯気を立てた状態で出てきて、結海を突然抱きしめた。


「ちょっと、嫌」

「いいじゃん」

「嫌だって!」

精一杯振り払うと、研哉は尖った目つきをした。

「…なんだよ。てか、急に一方的に別れたいなんて、結海らしくないよな。思ってたんだけど、新しい男でもできた?」

「…違う」

「絶対そうでしょ。白いパンプス新調してるし、香水も新しいの置いてあるし。もう浮気みたいなもんじゃん」

― そんなにこの家を見ないでよ。

「違うってば」と言う結海の声が、震える。

「お前さ、誰のおかげで実家がうまくいったと思ってんの?この恩知らず」

腕を強く握られ、結海は涙が出てくる。

― この恐怖に、私は操られている。

結海は、妙な冷静さでそう思った。


▶前回:11歳年下の女子大生に恋愛相談してたら、意外な展開に。恋愛に奥手の32歳男は…

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:2月19日 水曜更新予定
「別れたくない」と聞かない研哉に、結海はついに決定的な一言を告げる

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この記事へのコメント

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No Name
案の定、超イライラする展開になってる。こういう話は読んでもどっと疲れるだけ。ずぶ濡れだろうと何だろうと、もう別れて他人なのだから家に入れちゃダメなんだよ。バカだなぁ。うんざりして体育座りしてたのにバスローブの要求には「はーい」ってわざわざ段ボール開けてまで出して渡すとか…自分で自分を苦しめて悲劇のヒロイン気取り?
2025/02/12 05:3720
No Name
実家の件は、安易に研哉に相談して色々とやって貰った上に恋人価格で実費以外は無料にしてもらった事がそもそもも始まり。それの見返りに絶対服従させるようになったなら、「操られてる」とか思うのではなく実費以外も全て精算して支払った上でこれ以上恩着せがましい事言ってモラハラを加速させるなら別れる等、きちんと伝えて話した合っていたら今は違ってたかもしれない。従うからどんどん相手はつけあがる。
2025/02/12 05:3018返信1件
No Name
もう無理…この連載。期待外れ。切なさが伝わってきたり感情移入して泣けるような恋愛話で最後の最後にハッピーエンドなら良かったけど。この女の人物設定も苦手。
2025/02/12 05:5016
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