「深夜の西麻布でたこ焼きを」作家・麻布競馬場が、東カレのために書き下ろした最新エッセイ

「いや、恥ずかしいことに今日の今日まで『オステリア ナカムラ』のことは知らなかったよ。いい新店発掘になったね」

環状三号線方面に向かう細い路地を歩きながらユズ太郎が感慨深げに呟く。

「いや、僕も最近、まりこさんに教えてもらって知ったところなんだ。西麻布は、掘っても掘っても新しい発見があるね」

僕もまた、しみじみと呟く。『オステリア ナカムラ』は、僕とユズ太郎の共通の行きつけである乃木坂の中華料理店『乃木坂 結』のマダム・まりこさんにお勧めしてもらった「新店」だったが、きっと二人とも“結”と同じように『オステリア ナカムラ』にも今後通い続けるだろうという予感があった。

そういう点で、今日の「新店発掘」は、二人にとって最も典型的で模範的なものと言えるだろう。

僕たちにとっての「新店発掘」は、まず第一に新規オープンした店ではなく「新しく知った店」を初訪問する行為を言う。

そして第二に、グルメサイトをこまめにチェックして情報を集めるというよりも、今日のように好きな店からの紹介で訪問することが多い。

好きな店のスタッフが勧めるお店はこれまた好きな店であることが多いし、ありがたいことに紹介元のスタッフから「今度うちの常連が行くらしいから!」と事前に連絡を入れてくれることもたまにあったりする。

そうなると、紹介元の店での信用貯金が新店でも使えるようになって、初めての訪問にもかかわらず、まるで常連客のように接してもらえるのだ。

それなりに当地で飲み食いしてきたという自負はある二人組のはずだが、今日もそうであったように、それでもやっぱり西麻布には素晴らしい「新店」がたくさんあると思い知らされるばかりだ。

オープンして数年が経ち、既にちょっとした老舗の域に入りつつあるレストランの中にも未訪問のところは多いのだから、新規オープン店ばかりを追いかけているわけにもいかない。

新規オープン情報をいち早くキャッチしては、誰よりも早く訪問し、気に入ったか否かにかかわらず再訪することはなく、また別の新規オープン店を回り続ける……。

そういう「新店スタンプラリー」みたいなことをやっている自称グルメも一昔前には結構いた印象があるが、最近はそういう行為がダサいという認識が知れ渡ったようで、幸いなことにあまり見なくなった。

店は自慢の道具ではなく、誰かと素敵な時間を過ごしたり、時にはひとりで心安らぐ時間を過ごしたりするための場所であるはずだ。

そのための場所にいつまで経っても辿り着けず、それでいて自慢げに馬鹿げたスタンプラリーをやり続けるなんてことは、不幸なことですらあると思う。

少なくとも僕たちは、新規オープン店をたくさん知っていることよりも、気に入った少数の店を深く知っているほうが楽しいし、かっこいいと思っている。

僕たちにとって、新規オープン店情報をまとめたインスタアカウントで10万人のフォロワーを集めることよりも、ロッシーニ氏やサンドイッチ伯爵のごとく自分の名前のついたメニューを常連の店に残すことのほうがよっぽど名誉なことなのだ。

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