「正直ピンと来てない」まだ距離がある男女のデート。20時スタートであわよくば2軒目へ、その結果は…

気になる相手にこそ、自分が愛する街の素晴らしさを共有したくなるもの。池尻にも、そんな男がいた。

これは、池尻を舞台とした男女のストーリー。



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彼女にとっては、この街は完全アウェイ。そこで誘い出すのは、間違いなくお洒落で心地良いワインバーだ。男は自身のセンスの良さも伝えたい算段。

池尻20時スタート、あわよくば2軒目へ。まだ距離のある男と女の思惑が交錯する。

Ikejiri Date Story ~池尻のホンネ~


【woman】最近、池尻ら辺がいいって聞いても正直ピンときてなかった


彼が「最近のお気に入り」と薦める『Staff Only』の住所に着くも妖しい暗闇。ぽつんと見える灯りがその店だろう。

いかにも雑誌に載っていそうな隠れ家だ。そのワインバーは2階にあるらしい。

どこから入るの?と少し謎に思いつつ、1階の扉を開けて店員さんに聞くと、2階へ続く奥の階段を教えてくれた。

店員さんの雰囲気もお洒落だし、1階のバーでもいいと思うほど素敵だ。


脱力だけれど好きな素材を集めた感じ。シドニーとかの路地裏にありそうで、オーナーが外国人なのかもしれない。池尻にこんな店があるとは意外だった。

白金に長く住む私にとっては、物理的にも心理的にも距離がある街。正直、雑多で落ち着かない印象も……。

でもご無沙汰のアウェイだからこそ、誘われた時に行ってみようと思った。細い階段を、冒険気分で上っていく。

【man】港区にはない、自然で洒脱な空気感。彼女にしっかり伝えたくて


「もし迷ったら連絡してね」と彼女に伝えていたが、携帯はしんとしている。階段を上る足音が聞こえ、スマホを眺めるのをやめてワインに手を添えた。


僕に気づいた瞬間、彼女の顔が華やいだように見えた。「分かりづらかった?」と聞くと、「ちょっと」と返答はさらり。

「下と上で雰囲気が違って、両方いいね」

「僕は、最初は下のバーに行ってて、ここが夏にできてすぐ気に入ったんだ」

デートの滑り出しは上々か。何せ、こんなセンスのいい店なのだから。


大理石のカウンター前にはBGMとなるレコードが並び、ナチュラルワインが充実。

流石、デザイン会社が作った店だけあり、他で見たことのない内装となっている。流れる曲も空間によく合うテンション。

彼女にそんな店の魅力を伝えると、「なるほど」と、カウンターで酒を作る女性店員さんの手元に目をやって言う。

「あのレモンサワーも美味しくてさ」と、ハイビスカスとレモンが合う一杯も推薦。

【woman】もう少しこの店の素敵なセンスや息遣いを、静かに感じて、浸りたい,


階段を上りきって2階の部屋が見えた時、暖かな色味と丸みが多いデザインにひと目惚れした。

奥の一段下がったソファ席も素敵と思って覗いた瞬間、カウンターに座る彼と目が合った。まだ深く知らないけれど、明るい人だなとは思っている。

隣に座って、率直にお店を褒めると、彼は我が家のことのように喜んでいた。

カウンターは人造大理石のテラゾーで、最近格好いいと思うお店は、このテラゾーを使っている所が多い。


店にはレコードで音楽が流されて、本当はたまに曲が終わって音がやむ瞬間も好きだけれど、今日は彼がお喋りだからその余白を楽しむことはなさそう。

カウンター内にいる女性店員さんが、グラスに入れた氷をバースプーンで回す所作が綺麗で、この女性が作るカクテルは美味しそうだなと信頼が湧く。

「あのレモンサワーも美味しくてさ」

彼が目ざとく揚々と解説する。

【man】デートは確実に成功。頭の中で今夜の流れをシミュレーションっと


料理が美味しいから通う店でもある。シェフはフランスで5年働いていた人。パリにある『クラウン・バー』という店にもいたようで、フランスはバーのおつまみのレベルも高いのだな。

彼女はシェフがいた店の名前を聞くと、「行ってみたいと思っていました!」と目を輝かせる。根っからの酒好きか。

シェフは食材の組み合わせのセンスが抜群で、今日は鰹に赤パプリカやラズベリーを合わせていた。


鰹に甘酸っぱい果実を合わせるとは、なんてお洒落なんだろう。

カウンター席はシェフの調理を目の前で見られるし、次々と運ばれていく料理も目を楽しませる。彼女もその様子に、「あのお料理も美味しそう!」と反応。

「また来てみたい……」と、心の声が漏れるように言うとは、だいぶ脈あり。「また、いつもの池尻の店で」という逢瀬が続くのも大人の恋愛だ。

今日は2軒目に行けそうな雰囲気。店は、1階のバーでよいだろう。我ながら自然でスマートな流れである。

【woman】心を射抜かれた。彼じゃなくてお店に。とりあえず再訪はひとりで


パリの『クラウン・バー』で修業したシェフと聞いて心躍った。コロナ前に計画したフランス旅で行こうとした、100年以上の歴史があるビストロだ。

憧れの老舗と池尻で間接的な出合いを果たすとは、意外で嬉しい展開。鰹にラズベリーを合わせるのが流石だ。私は同系色の組み合わせに目がない。

お酒担当の女性店員さんによると、ペアリングを謳うより、カジュアルに好きなものを飲んでほしいとのこと。その楽な温度感に共感するからこそ、彼女のオススメを聞きたくなった。

提案されたのは余韻にほのかな塩気を感じるイタリアワインで、鰹に最高に合う!


シェフと彼女のさり気ない接客に早くも気を許し、今晩、自分と池尻との距離が縮まった心地。

運ばれていく他のお客さんの料理も美味しそうだし、今度ひとりでもまた来てみたい……。この彼に会うかもだけど、細かなことを気にせず「奇遇!」と言ってきそうだし、嫌ではない。

下のバーも気になるものの、再訪するから今日のところは帰ろう。

この物語の舞台は……『Staff Only』


バー『LOBBY』の2階に、同じ運営会社がワインバーを今年7月に開業。フレンチベースの料理を前菜からメインディッシュまで季節ごとに用意し、ワインを飲む時間を贅沢なものとする。

■店舗概要
店名:Staff Only
住所:目黒区東山3-6-15 2F
TEL:03-6303-4814
営業時間:ディナー 18:00~21:30
     バー 21:30~24:00
定休日:月曜、火曜
席数:カウンター5席、テーブル18席

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