2024.10.28
恋のジレンマ Vol.9翌日、日曜日。
彩花は母親からの連絡を受け、代々木上原にある実家に戻っていた。
「話があるからこっちに来てほしい」
何か差し迫った事態にあるように感じ、やや緊張感を持って赴いた。
母親の佑美は、華道教授をしている。自宅1階の和室に生徒たちを招いて教室を開き、生け花や華道のマナーなどを教えている。
ほのかに漂う花の香りを感じると、実家に帰ってきた実感が湧く。
和室の隣のリビングで、彩花がソファに座って寛いでいると、佑美が入ってきた。
「急に呼び出してごめんなさいね」
佑美がアールグレイの入ったティーカップを並べ、向かいに腰をおろす。
「あれ?涼花は?」
妹の涼花も一緒だと思っていたが、姿がない。
「涼花にはもう伝えてあることだから」
涼花が実家住まいであることから納得すると、佑美が背筋を正して言った。
「あのね。お父さんと、離婚することになったの」
一家の危機を告げる、衝撃的なニュースである。
しかし、彩花にはそこまでの動揺はなかった。
驚きはしたが、どこか仕方ないような、諦めにも近い感情が湧いた。
というのも、父親の彰浩と佑美は、そもそもあまり仲がいいとは言えなかったからだ。
総合商社に勤める彰浩は海外出張が多く、家のことはほぼ佑美に任せきり。
たまに帰国して自宅に戻って来ても、互いにつれない態度で接し、険悪なムードを漂わせることもあった。
そんな状況が、現在も続いている。
2人が不仲になった原因は、自分の目に見えている問題がすべてではないと、彩花にはわかる。
夫婦間でしか通じ合えない不平不満を抱えてもいるはずだ。
子どものころ、彩花は、2人のあいだに見えない厚い壁の存在を感じていた。しかし言葉で明確に表現してしまうと取り返しのつかないことになりそうで、幼心に気をつかい、何も尋ねなかったのを思い出す。
「ふ~ん。そうなんだ…」
彩花は紅茶を飲みながら、素っ気なく答えた。
実は、彩花に結婚願望がないのには、こうした両親の関係性が少なからず影響している。
結婚に憧れが持てないから、男性に対しても一時的な快楽を求め、ライトな付き合いを望んでしまうところがあるのだ。
「離婚は、いつ決まったの?」
「もう何年も前からよ。涼花がまだ大学生だったから、卒業するまではってお父さんと話していたの。それで、春に涼花が卒業したから」
「そう…」
― そんなことは相談してるんだ…。
会話を交わしている様子などあまり目にしたことがなかったにもかかわらず、離婚に関するやり取りだけはしていたのだと不思議に思う。
― もっとプラスな話し合いをすればいいのに…。
せっかく会話を交わすのなら、もっと建設的な意見を出せなかったのかと、腹立たしくも感じてきた。
たとえ不仲ではあっても、ここまで何十年と夫婦として関係を続けてきたのに、結局は離婚という結末を迎えようとしている。
時間をかけて積み上げてきたものが、呆気なく崩壊してしまう。
― やっぱり、結婚なんてしたいと思えないよ…。
彩花の中で高まりつつあった結婚へのモチベーションが、みるみる減退していく。
そこで、スマートフォンに着信が入った。
橋村からのLINEだったが、彩花は、対応するのもどこか億劫に感じてしまうのだった。
▶前回:新宿で甘い夜を楽しむはずが…。待ち合わせ場所に来た女の顔を見て、28歳男が凍りついたワケ
▶1話目はこちら:職場恋愛に消極的な27歳女。実は“あるコト”の発覚を恐れていて…
▶NEXT:11月4日 月曜更新予定
【後編】両親の熟年離婚を知った27歳女性。結婚を期待する彼からの告白に、どう答えるか悩み…
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