2024.10.21
恋のジレンマ Vol.8「吉沢くん!マジごめん!」
食事を終えて有紀とも別れたところで、葵が手を合わせて謝罪の言葉を口にした。
やはり葵は、受付の女性2人の名前を逆に覚えていたのだ。
諒也の本命は、鮎沢唯というもうひとりの女性のほうだった。
「確かにLINEでやり取りしてても、なんか違う感じしたんだよね」
「おいおい、しっかりしてくれよ。ホント頼むよ…」
呆れたように言い返すと、葵が面目ないと顔をしかめた。
とはいえ諒也は、有紀のことを邪険に扱うような真似はしなかった。
「でも、吉沢くん。ありがとね。最後までちゃんと付き合ってくれて」
「そこは…。まあ、印象を悪くしても仕方ないしな」
有紀には人違いだったなどと感じさせないよう、紳士的に振る舞った。
もとは諒也からの好意を匂わせての誘いだったわけだが、そこは持ち前のトークスキルでシフトチェンジ。
仕事熱心な姿を装い、売り上げを伸ばすためのヒントになればと職場環境について伺いつつ、あくまで仕事上のアドバイスを求めているという姿勢を貫いた。
意見交換をしつつ、適度に流行の話題も盛り込み、和やかで有意義な時間となった。
「まあ、ほら。有紀さんも楽しそうにしてたし。これで唯さんにも繋がりやすくなったんじゃない?外堀から埋めていく…みたいな?」
「そうかな…。余計に声がかけづらくなった気もするけど」
今日の件に関しては、唯にも報告がいくはずである。
唯に関する情報量は少なく、彼女が自分に対してどんな印象を持つか、諒也は推し量れない。ここからどう距離を縮めていいものか、悩んでしまう。
― はぁ…。やっぱり女なんて頼りにするもんじゃないな。
見込みの外れた相棒に辟易していると、葵が顔を寄せてじっと見つめてきた。
「なんだよ…」
葵が、「それ…」と左目のほうに指先を向ける。
「え…目?まさか…?」
諒也が左の目もとに触れると、上瞼にズキンと痛みを感じた。
◆
自宅マンションに戻った諒也は、洗面台の前に立ち、鏡で左の目もとを確認した。
「あーあ。またできちゃったよ…」
左目の違和感の原因は、ものもらいだった。
「くっそう。あいつのせいだ…」
先日処方してもらっていた目薬を差しながら、葵の顔を思い浮かべる。
受付の女性とコンタクトをとり、早急に飲み会の約束をとりつけてくれた葵。
だが、両者の名前を勘違いするという失態は、容認できるものではない。
結局は意中の相手と何の進展も得られず、ただストレスを抱える結果となった。
ストレスの大きさは、まぶたのできものが物語っている。
「目薬もこれじゃ足りなさそうだな。週明けにもらいに行かないと…」
目薬の容器を光に晒すと、残りの量が3分の1を切っていた。
処方してもらいに、クリニックに行かなければいけない。
今日の一件があって諒也はどうも気が乗らないが、仕事の動線を考えると、ベストな位置にあるのはあのクリニックである。
それに、唯と接触できるのは、今のところあの場所しかない。
身動きの取りづらい状況に追い詰められてしまったようで、もどかしさを覚える。
― なにが、『外堀を埋めていく』だよ。ふざけんなよ…。
帰り際に言っていた葵の言葉が、諒也の頭に浮かぶ。
怒りの矛先を葵に向けるしか、現状を受け入れる方法が見当たらなかった。
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