かわいく生きられない女たち Vol.2

出会いを求めて参加した結婚式の2次会。28歳女が、ハイスペ男を前に大苦戦したワケ

「何系を作るのが好きなんですか?」

「えーっと、グラタンとか…?」

「あぁ、僕もソースから作る性質なんですよ。ダマにならないようにかき混ぜるのが難しくて。何かコツを知っていますか?」

「うーん。泡立て器を使うとか…?」

会計士の笑みが少し引きつったのがわかる。

― お酒を飲んでごまかすしかない。

ちょうど新郎と新婦がシャンパンタワーにシャンパンを注ぎ、場内は興奮に包まれた。


ウェイターがシャンパンを振る舞ってくれる。

私は口からでまかせを言い続け、嘘を洗い流すかのように、グラスを乾かし続けた。

私も「かわいい」を演じているうちに、自分がよくわからなくなってきた。今まで生きてきた人生はなんだったのだろうか?

きめ細かい泡と、まろやかな風味…上質なお酒だ。お酒はいつも私の心を癒やしてくれる。


史上最悪の二日酔いで目が覚めた。私はホテルのベッドの上にいて、断片的に覚えている記憶を手繰り寄せた。

あの後、会計士は私から離れて行き、次に声をかけてきた弁護士と話をした。

しかし、結局仕事の話になり、かわいく返答できずに玉砕し続け、残ったのはアルコールだけだった。そして「氷室さん、もう帰りましょう」と一ノ瀬に言われて、一緒にタクシーに乗ったのだ。

ラグジュアリーホテルの前を通りかかり「ねえ、このホテルずっと行ってみたかったの。現地調査に行かない?見るだけだから!」と彼を誘い、ここに来たのだった。チェックインをして、部屋に入り……見るだけで終わるはずがなかった。

― いっそ、ぜんぶ忘れていた方が楽だったのに…。

時刻は深夜2時で、視線を横に向けると鏡があった。それは私が何も身に着けていないことを教えてくれた。体を起こし、下着を身に着けて、トイレに向かおうと立ち上がる。

すると、バスルームから一ノ瀬が出てきた。

「あ。氷室さん、起きたんですね」

彼は腰にバスタオルを巻いていた。なめらかで引き締まった体だ。トレーニングもしていないくせに、意外といい体をしている。

「何、見てるんですか?さっき散々見たでしょう。氷室さん、かわいかったな」

「あ、よかった。酔っても“かわいいモード”キープできてた?」

「あんな作った感じもなく、もっと素でしたよ。“エリート銀行員の氷室”でもないし、ピュアというか、抜けてるというか…。素の氷室さん、かわいかったですよ」

― 知らなかった。私にそんな一面が、あったなんて。

もしかしたら、私は自分をよく見せようとしなくてもいいのかもしれない。誰かになろうとしなくていいのかな。

それでも良いと言ってくれる希少な男性は、いるのかもしれない。目の前にいる、彼のように―。

「一ノ瀬、ありがとう。また、婚活がんばれそうな気がしてきたよ」

「どういたしまして。って、俺なんかしました?」

一ノ瀬が不思議そうに微笑む。

素敵な笑顔だ。まっすぐで、嘘のない。それは今の私が必要としているものだった。

ベッドに腰かけた彼に向かって、私は言った。

「一ノ瀬、始発の時間まで付き合って」
「え、もう1回するんですか?」
「違うよ!婚活の作戦会議だよ!」

諦めることはいつでもできる。だから、もうちょっと恋愛をしてみることにした。頼りになる後輩も、いることだしね。

もっと私は“私”に還るべきなんだ。


▶前回:メガバンク勤務、28歳ワセジョの婚活が難航するワケ

▶Next:10月17日 木曜更新予定
次回は「全国模試では偏差値70、恋愛偏差値は30」……東大女子はつらいよ

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この記事へのコメント

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No Name
唯は二股相手と言うより単なる都合の良い女扱いされてただけなのか…彼は二人が同じ職場だと知りながら? よく分からない。勢いで後輩くんに手を出したりしょうもない展開にドン引きした。
2024/10/10 07:0721返信2件
No Name
古臭い文章と言い回し、展開も微妙。ライターさん50代オーバーなのかな、林まりこさんの昔の小説を思い出した。
2024/10/10 07:1819返信1件
No Name
最後に唖然…
2024/10/10 10:038返信1件
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