アオハルなんて甘すぎる Vol.20

「もう少しだけ、このままでいいかな?」初デート中、東京タワーまでの道で突然手を握られて…

― いろ、いろ…?

色々って何でしょう…?とおずおずと敬語になった私に大輝くんが笑って続けた。

「伊東さんとデートして、お互いが盛り上がって気がついたら翌朝も一緒にいてさ、その後に恋が始まるって可能性もあるんだよ?宝ちゃんがOKだと思えたらそれにトライしてもいいだろうし、イヤなら流されずにきっぱり断わる。今日はその予行練習だからね」
「いや、絶対ないです!伊東さんと私には、翌朝パターンは絶対にない!」

翌朝という単語に過剰に反応して強くなった言葉が、恋愛に幼い自分をそのまま表わしているようで恥ずかしくなる。大輝くんはそうかなぁと笑ったまま、例えばさ、と言っておしぼりでそっと口をぬぐった。何をしてるの?と思っているうちに、私の手が握られ、そのまま持ち上げられていく。

チュッと小さく音がして、手の甲に…軽いけれどキスをされたのだと理解し固まった私の手を握ったまま、大輝くんはほほ笑みを強めて言った。

「伊東さんってほぼフランス人になっちゃってるアムールの人なんでしょ?日本男子っぽい照れは超越してるだろうし、食事中に盛り上がったらこんなこともあるかもよ?」

イヤだったらやめてくださいってきっぱり拒むんだよ?と言った大輝くんの表情に、私はハッとして、少々ムッともして我に返った。

― そういえば、この人もアムール属性の人だった。

出会った日のハグの衝撃を忘れかけていた自分に突っ込みを入れながら言葉を続ける。

「…大輝くん、私で遊んでない?」
「遊んでないよ」
「…イケメンだからって何しても許されると思ったらダメだよ」

いきなり手にキスするなんて気持ち悪いと思う人もきっと多いんだからね!と叱るふりで冷静を装った私に大輝くんは、気持ち悪いなんてはじめて言われたなぁと、しばらく爆笑したあと、ごめんね、としょんぼりトーンで真顔になった。

「宝ちゃんがかわいかったから、思わず」

ニコッと笑われて悔しい。どうにも笑顔がかわいいのだ。どうやら色気モードを一旦オフにしたらしい大輝くんのいつもの微笑みに毒気を抜かれてしまう。そんな私たちの目の前で、店長さんがモツ鍋の準備を始めてくれている。聞かれていたら恥ずかしすぎると私は無理やり話を変えた。

「大輝くんにとっては特別なことじゃないからって気軽にそんなことしてたら、彼女さんが悲しむよ?」

そういえば、疑似とはいえ自分の恋人が他の人とデートするなんて、気分が悪いはずだよね、と今更気がついてしまった自分を反省した。そのことを伝えると大輝くんが、ぜんぜんだったよ、と少し寂しそうに続けた。

「ちゃんと伝えてきたから。女友達のデート練習に付き合ってくるってこと。でもぜーんぜん。予想はしてたけど全く嫉妬してくれなかった。オレが逆の立場だったら、たぶんやきもちどころじゃないんだけどなぁ」

そう笑う大輝くんに、申し訳ないという気持ちと疑問が同時にわいた。

「本当にありがとう…でもごめんね」
「なにが?」
「今、練習相手になってくれてること」
「どうしたの、急に」
「…なんで大輝くんはOKしてくれたのかなぁって」
「え?」
「だって大輝くんが逆の立場だったら…大輝くんは疑似だったとしても恋人が他の人とデートするのはいやなんだよね?彼女さんも本心ではいやだと思ってるかもしれないでしょう?私が大輝くんに甘えすぎてるんじゃないかって心配になってきちゃって」

今更でごめん、ともう一度謝った私を、大輝くんは不思議な表情で見ていた。虚をつかれたような、それでいて悟り切ったような。そして言った。

「オレさ、今の自分の気持ちがわからないんだよね。こんなの初めてなんだけど」

この記事へのコメント

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No Name
先週更新がなくてガッカリしたけれど今日読めて相変わらずの内容で大満足。今日の様子を伊東さんが偶然見かけたりしていない事を祈る!!
2024/06/29 06:0339
No Name
モツ鍋食べたくなった♡ 季節は逆だけど。
2024/06/29 06:0534返信1件
No Name
キャーー、大輝、宝を好きになっちゃった🥺⁉️
2024/06/29 06:4532返信1件
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