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  • 「女性に断られないホテルデートとは…」29歳商社マンが実践している、男の”ある秘策”とは

    仕事も遊びも効率的に楽しむ男


    大手商社に勤めて5年目の僕は、もうすぐ直哉さんから国内のクライアントの多くを引き継ぐ予定だ。

    都市開発事業の担当である僕と直哉さんのクライアントは、日本全国に点在している。

    そのためここ数ヶ月は、直哉さんと一緒に日本各地をあっちこっち出張に飛び回っているのだ。

    僕が直哉さんの秘密に勘づき始めたのは、1ヶ月前に出張で京都を訪れた時…。

    京都人らしくなかなか心を開いてくれない、と耳にしていたクライアントへの挨拶を無事に終わらせた夕方のことだった。

    「はぁ…直哉さん、なんとかうまく話もまとまってよかったですね。そろそろ京都駅に移動しますか?」

    東山駅近くの交差点で伸びをしながらそう声をかけると、直哉さんは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

    「いーや、俺は帰らないよ。明日はリモートにして、今夜は泊まってくわ」

    「え…?」

    僕たちは大手商社に勤めているが、好き勝手に経費でホテルに泊まることはできない。

    「でも、個人都合で宿泊しても経費で落ちないですよね?」

    僕は、浮かんだ疑問を素直に直哉さんに伝える。

    「もちろん自費だよ。しかも俺ひとりで泊まるわけじゃないから」

    直哉さんの視線の方向に目線をやると、道路を挟んだ向かいに22、3歳くらいの女性が立っている。

    スタイルも顔もアイドルみたいに可愛い彼女は、ヒラヒラと直哉さんに向かって手を振っている。

    そして、直哉さんは颯爽と彼女の腰を抱きながら、目の前の「THE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotel」に、仲睦まじく身を寄せ合って吸い込まれていった。


    ― うわ、まじで…!

    直哉さんは、いつもそうだ。

    札幌でも、福岡でも、広島でも、静岡でも、出張先では必ずといっていいほどプライベートで後泊していた。

    さすがに女の子とホテルに入って行くところを目撃したのは初めてだが、「日本各地の女の子と楽しんでいるらしい」という噂は本当のようだ。

    ― 直哉さんってホントすごいな。シンプルに男として尊敬するわ。

    京都駅からひとり品川行きの新幹線に乗った僕は、直哉さんのことを考える。

    ちゃらんぽらんな雰囲気と生粋のプレイボーイっぷりで、社内では直哉さんのことをよく思わない人もいる。

    けれど僕は、そんな評価をまったく気にしていない。

    社交的で人たらし。アイデアマンでテクニカルプレーヤー。

    仕事も遊びも要領がよく効率的。男としては憧れないほうが難しいだろう。

    ― そのうえ日本各地で女性とお泊まりし放題なんて、ほんとスゴイよなぁ…。

    僕は直哉さんへの憧れをつまみに缶ビールのフタを開ける。


    「晴人、おかえり」

    ヘトヘトの体を引きずって恵比寿の自宅マンションにたどり着くと、ロビーで甘い声が僕を迎え入れた。

    「梨花、ごめんね待たせちゃって」

    「うん、待ってたよ。寂しかったぁ」

    甘えた声を出しながら、梨花はぎゅっと僕にしがみつく。

    彼女とハグしながら、僕は溢れ出る幸福を噛み締める。

    半年前にできたばかりの、3つ年下で24歳の彼女・梨花。渡り鳥のような直哉さんの生活に憧れながらも、別にプレイボーイになりたいと思わないのは、彼女の存在がある。

    梨花と一緒にいると幸せだなのだが、一つだけ悩んでいることがある。

    シャワーを浴びて、梨花とベッドでまったりしていると彼女がいつもの不満をこぼす。

    「ねえ、晴人。いつもお部屋デートばっかりだけど、たまには旅行とか行きたいよ。国内でもいいから、月イチくらいは晴人と一緒に旅行に行きたいなぁ」

    薄明かりの中で潤む瞳を見ていると、「いくらでも連れていってあげる!」と返答しそうになるが、僕は別の言葉を絞り出した。

    「そうだね、仕事が落ち着いたらね…」

    お嬢様育ちで化粧品会社勤務の梨花は、ちょっとラグジュアリー志向な女性だ。

    最近こうして頻繁に旅行をおねだりされるようになり、そのたびにやんわりと話を逸らし続けている。

    だけど、実際は忙しさの問題だけじゃない。

    “大手商社マン”といえば、確かに世間的には高給取りの方なのかもしれない。

    だけど、恵比寿のマンションの家賃に生活費。梨花とのデート代は全部おごりだし、記念日にはブランド物をプレゼントしているから、金銭的にそこまで余裕があるわけではない。

    梨花の言う旅行は、高級ホテルに泊まるラグジュアリーな旅行だろう。行くならもちろん、僕が全額負担することに異論はないが、無い袖は振れない。

    このままうやむやにしてお家デートばかりだと、いつかは愛想を尽かされてしまうかもしれない。

    言いようのない焦りが、幸福の背後からヒタヒタと忍び寄る。

    ― 僕も早く、直哉さんみたいにあちこちのホテルに泊まり歩けるようになりたい。

    いつの間にか梨花は、腕の中で小さな寝息を立て始めている。シルクのようにつややかな髪をなでながら、僕は小さくため息をつくのだった。

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