2024.04.27
アオハルなんて甘すぎる Vol.13「感情に流されて、宝ちゃんを連れて行ったジャッジが甘い、でしょ?あとは」
「…」
「携帯を持たせることにリスクを考えなかったのか。それに」
「…」
「あんな男を選んだんだから自業自得、だよね」
「……自覚してるなら進歩だな」
やだなんか優しいじゃん!雄大が優しいと怖い!とふざけた愛に、雄大の眉間のシワが深くなる。そんな顔しないでよ~とその肩を押した愛が、私さ、と続けた。
「宝ちゃんと初めて2人で飲んだ日にね。この辺りで生活始めると、闇にのまれちゃう女子もいるから気を付けてって…言ったんだけどさ」
「…」
「闇にのまれた女子が私だなんて、宝ちゃんは思ってもいないと思うけど。あーあ、あの頃の私ってひどかったよねぇ」
「…」
「お金と野心に目がくらんで、成り上がりたくて」
「今更過去に浸るな。無駄だ」
ぴしゃりと雄大に遮られた愛は、笑いながら溜息をついて脱力し、ソファーの背もたれに大きく体を預けて天井を仰いだ。しばらくの間どちらも言葉を発さず、雄大がグラスを回し、持ち上げるたび、その氷の音が響く。沈黙を破ったのは雄大だった。
「…タケルくんのことをあきらめろ」
「…は?」
「一緒に暮らすことを、もうあきらめた方がいい」
「……何言ってんの?…え?なんか作戦ってこと?取り戻すために、一旦あきらめるふりをするとか?そういうこと?」
戸惑い揺れる愛の問いに、雄大は冷めた表情のまま言った。
「今の愛じゃ、タケルくんを幸せにできない」
愛の目が見開かれ、怒りに顔が染まる。
「…そんなことない。そんなこと、あるわけない」
絞り出された声が、私はタケルを幸せにするために生きてるの、とヒステリックに悲痛に響き、雄大の胸の奥でジリっと何かが焦げて痛みが走る。それを無視して雄大は続けた。
「お前とタケルくんの関係がどんなに良好だったとしても、タケルくんが今一緒に暮らしているのは…少なくともあと5年は保護を受けなければならないのは父親だろう。そしてその父親は伝え方はともかく、最高の教育を与えようとしてるようには見えるけどな」
「雄大は知らないからよ。タケルがあの家でどんなに肩身が狭い思いをしているか。どんなにあの父親におびえているか」
「確かに知らないよ。でもそうだとしても、今すぐには救い出せない。それが現実だろ」
「…だから、せめて月一の面会だけは…でも海外に行かれちゃったら…」
愛がうつむき、その肩が震え出す。
― やめてくれ。
愛に泣かれるのは本当に困る。近づいてその肩を抱き寄せ、支えたくなる感情に名前をつけたくもない。ごまかすように雄大は言った。
「…今回のことでよくわかったろ?これ以上どうにもならないってことも、両親が争えば争うほど、タケルくんが板挟みで苦しむんだ、ってことも」
愛はうつむいたまま、答えない。雄大はラムを一口、口に含んだ。喉を焼くアルコールの力をかりて、続きを口にする。
「タケルくんが海外に行ったとしても、月一の面会は、オレが必ず死守してやる。会えなくなるなんてことには絶対にさせない」
愛が、顔を上げた。その目は、驚きで見開かれている。
「……雄大、どうしたの?」
「どうしたの、ってなにが」
「そんなこと雄大にできるわけないでしょ」
「やってみなきゃわからないだろ」
「ほら。ますます、らしくないよ。やってみなきゃわかんない、なんて。雄大の大好きな合理的ってやつじゃないじゃん。……宝ちゃんみたいだよ」
― 宝ちゃん、みたい…?
思いもよらなかった指摘に一気に気まずくむず痒くなった雄大は、慌てながらも平静を装って話を切り返した。
「まあとにかく、手を離すことも愛情なんじゃないかってオレは思っただけ。昔話にそういう話あったろ。どっちが本当の親かみたいなの確かめるやつで」
ああ確か、江戸時代の裁き的なお話だね…と、自分の環境に重ねたのか、愛がまた落ち込んでうつむく。しまったと思いながらも、うまくごまかせたようだと雄大はホッとした。
― 確かに、らしくない。どうしたオレ。
愛の面会のペースだけは守ってやりたい。その熱が、自分が否定した宝の幼い熱と同じものだとは断じて思わない。思いたくはないが。
― 影響を受けてる…のか?宝ちゃんの…?
思わず浮かんできた考えに戸惑い、慌てて打ち消すと雄大は、作戦を立てるための具体的な質問を愛に始めた。
大輝くん、幼い頃の複雑な環境からか、人の心を読み取ることに長けてるね。そういう人物設定もこのライターさん、上手いと思います。
【アオハルなんて甘すぎる】の記事一覧
2024.05.18
Vol.16
「デートの正しい作法がわからない…」西麻布の1Kの自宅で、28歳女が親友にすがりついた理由
2024.05.11
Vol.15
「僕とご飯にいくのがイヤってことかな?」男からの単刀直入な質問に28歳女は慌てて…
2024.05.04
Vol.14
「他の人とデート行くの、俺もちょっと寂しいよ」28歳女に思わぬモテ期が来た理由とは
2024.04.13
Vol.11
28歳女の誕生日を、男女4人でホテルで祝うはずが…。女2人が深く傷ついたワケ
2024.04.06
Vol.10
サイコパスな元夫が強制してきた、一人息子の海外留学。28歳女が思わず口にしたコト
2024.03.30
Vol.9
「港区に住むなら、絶対知っておくべきコトは…」27歳女が触れてしまった、西麻布の闇
2024.03.23
Vol.8
「ハグしたい」深夜の23時55分、デートの帰り際に女性が思わず言った言葉に男は…
2024.03.09
Vol.7
「俺の大切な人」イケメン年下男からのまさかの言葉に、27歳女は動揺し…
2024.03.02
Vol.6
「今夜、食事しない?」浮気した同僚男性からの誘い。27歳女の心は揺れたが…
2024.02.24
Vol.5
「東京での成功に、ものすごく憧れていた…」27歳女性が男の苦労話に涙した理由
おすすめ記事
2024.04.20
アオハルなんて甘すぎる Vol.12
「チープな正義感は通用しない」28歳女が、友人のために経済界に顔が通じる大物を怒らせてしまい…
- PR
2024.05.14
「彼とのデートがマンネリ気味で…」今週末行くべきは、非日常を味わえる有名店ばかりのグルメフェス!
2017.04.20
東京マザー
東京マザー:時短勤務は戦力外?!育休あけの女性がぶつかる、よけいな気遣いと圧力
2016.10.05
秘書の秘め事
秘書の秘め事:「見た目は大人、心は子供」のエリートたち。秘書に甘える彼らの心理とは?
- 関西
2018.06.04
大阪LOVERS
「結婚してほしい」ハイスペ彼氏からの突然のプロポーズに、28歳の量産型女子が喜べなかった理由
2017.06.19
人形町の女
人形町の女:私は女として、何か欠落しているの?夫との別居後につきまとう、ある呪縛
2016.07.04
こじらせマン
こじらせマン:高スペックな敏腕プロデューサーのエキセントリックな結婚条件とは!?
2019.02.10
実家暮らしの恋
実家暮らしの恋:28歳の美人商社OL。周囲が絶賛する“完璧な女”の、男は知らないズボラな一面
2018.09.05
外銀女子
外銀女子:実力主義じゃなかったの?政治・贔屓・コネ...etc 欲望渦巻く、外銀の“ウラ事情”
2015.05.03
外資系金融で働く女のレストラン事情
デートも時給換算?年収数千万外資金融女子が食事デートに求めるもの
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.05.08
東京レストラン・ストーリー
いつも“片耳イヤホン”の29歳彼氏。彼女が「やめて」と指摘したら険悪な雰囲気になり…
2024.05.12
Editor's Choice~life style~
今日5/12が母の日って忘れてない?今すぐ贈れるギフトで癒やし体験をプレゼント
2024.05.07
Editor's Choice~hotel~
夏はすぐそこ!思いっきり非日常を味わえる海外のラグジュアリーホテル3選
2024.05.09
Editor's Choice~beauty & wellness~
母の日に贈るプレゼントは、もう決めた?今からの購入でも間に合う、限定ギフトボックス3選
2024.05.10
大人の週末ToDoリスト
ジョン・レノンのプライベートに迫る映画や、タイフードを楽しめるフェスなど、今週末のイベント3選
この記事へのコメント