離婚カレンダー〜夫婦の正しい終わり方〜 Vol.3

浴室にもスマホを持って行く夫…。「絶対に浮気してる」と確信した34歳妻が、渋谷の探偵事務所へ

「そもそも、夫婦なのにお金のことを全く知らないのは、不健全よ。私は、資産状況はその人の人となりを表す大切な指標だと思うわ。

それにね、ご主人が仮にローンなしで、しかも個人名義だってことがわかったら…離婚時にマンションの売却益の半分くらいはもらえるじゃない?」

純香の現実的な言葉に、楓は思わずうなずく。

まだ別れると決めてはいないものの、本当に離婚になったら…。そういったお金周りのことは、避けて通れないのだろう。

じわじわと現実を噛み締め始めた楓を前に、純香は手を緩めない。黙り込む楓に対して、さらに残酷な現実を突きつける。

「それと、この際だからご主人の身辺を一切合切洗ってみたらどうかな?」

純香いわく、いきなり出て行って理由の説明もないなんて、どう考えてもおかしい。女性の存在を疑うべきだというのだ。

「まず、ご主人にLINEや電話で直接理由を聞いてみたら?楓さんはもっとご主人を疑うべきよ」

「はぁ…。やっぱりそうよね。わかってる、わかってるんだけど…」

純香を紹介してくれた晴子も、黙ってうなずいている様子を見ると、同意見ということなのだろう。

思わず大きなため息をついた楓だったが、それと同時に、頼りになる2人に心強さも感じる。

「でも、洗うってどうやって?探偵雇うとか、そういうこと?」

楓が聞くと、2人は顔を見合わせてうなずくのだった。




晴子たちと会ってから1週間も経たずに、楓は探偵事務所を訪れていた。自分にこんな思い切ったことができるとは驚きだ。

踏み切ったのには理由があった。

実は数日前、夫・光朗に直接連絡をとったのだ。

最初、電話をかけたが出る様子がなかったので、連絡の手段はLINEだ。先日弁護士に言われたように「離婚したくない」と単刀直入に伝えた。

娘はまだ小さく、父親の存在が必要なこと。また、楓自身、離婚など考えたこともなく、突然の離婚届に戸惑っていること。

そのほかにもつらつらと想いを連ね、送信ボタンを押した。

もちろん、こんなメッセージで離婚を思いとどまるはずはないとわかっている。むしろこうして追うほどに、ますます避けられてしまうかもしれない。

しかしそれを承知で楓は、自分に改善できる点があれば言ってほしい、とへりくだった。

送ったLINEは、数時間のあいだ既読にならなかった。だが、楓が諦めかけていた時に、短いメッセージが届いた。

『理由か…』

この一文から、もう夫の意思は決まっているのだと察した。

そして少し間をおいてさらにメッセージが届いた時、楓はスマホの画面を凝視したまま、動くことができなかった。

『理由なんてひとつだけじゃない。

前からなんとなく居心地が悪さを感じていたし、いつの間にか女性として見れなくなっていたんだ』

想定外の理由に楓は心が抉られるようだった。だが、それ以上に気になったことがある。

ー 光朗さんって、こんな人だった…?

夫を知りたい。

そんな気持ちが次第に熱を帯び、とにかく行動しなくては!という衝動となって楓の背中を押した。

すぐさまネットでいくつかの探偵事務所を探し…そして今、こうして探偵事務所のソファに座っている。

個人経営ということもあり、事務所はこぢんまりとた渋谷の雑居ビルだ。けれど、比較的良心的な費用であることが。楓の気持ちを安心させていた。


少しの待ち時間の後、楓の目の前に座ったのは、いかにも女性にモテそうなイケおじといった風貌の探偵だった。

40代半ばだろうか。仕立てのよいスーツに身を包み、綺麗に整えられた顎髭、ウェリントン型のメガネをかけている。

「浮気を疑うなら、時間や日数で調査料金が大幅に変わってくるので、闇雲に何日も調査する事はお勧めしませんね。

お持ちの情報を全部曝け出してもらえれば、この日に調査はどうか?といった提案もできますし、料金負担は軽くなります。よっぽどの証拠が出ないと、調停には使えないんですよね」

「よっぽどって、例えば…?」

これまでの調査実績などを饒舌に語る探偵に、楓はおずおずと聞き返す。探偵のいう「よっぽど」がどの程度なのか、知っておきたかった。

「そうですねぇ。不貞行為だったら、ホテルに入るところと出てくるところの2場面の写真。それから、SNSのやりとりとか、音声データなんかもあるといいですよ」

探偵はそのほかにも、週刊誌さながらの具体的な調査方法を怒涛の勢いで解説し出す。

これまでの生活とは全く違う刺激的な内容にくらくらとし始めた楓は、どうにか正気を保ちながら、調査費用について尋ねた。

「張り込む人数は基本2人、出入り口が数箇所ある場所だったら、増員が必要だし。そうですね、ざっくりですが1日あたり15〜30万くらいはかかっちゃいますね」

「やっぱり、そのくらいかかるんですね…」

想定していたとはいえ、調査費用は高額だ。思わず肩を落とすが、そんな楓の様子を意にも介さない様子で、探偵は言葉を続けた。

「ちなみにですが、調査をご依頼いただけるなら、ご主人の様子をよく思い出して、気になることを書き出してみてください。

いつもどんな時間にどんな場所から電話があったか。休日はスマホをいじっていたかどうか。普段、目にしたことがない小物や服を身につけていなかったかなど…。ちょっとしたことです」

楓は少し考えてから、思いついたことを口に出してみた。

「そういえば、数ヶ月前、娘のお稽古で車に乗ったとき、いつもなら後部座席につけっぱなしのチャイルドシートが、後ろのトランクにしまわれたことがあった…とか?」

「そうそう!そういうのです」

探偵に乗せられると、不思議と次から次へと気になっていたことが思い出された。

「仕事の電話があるかも、と電話を洗面所まで持って行ってました。お風呂に入ってたら、電話なんて取れないのに」

こんな小さなことを積み重ねた結果で、浮気を決めつけていいのか?と思うが、なぜかどんどん頭に浮かんでくる。

その場で理由を聞いた事柄もあった。だが、ほとんどの場合、夫は曖昧にはぐらかしていた。

「ぜったいに…黒だ」

楓の中で、小さなもやもやが確信に変わった。

― だったら私…少しでも有利な条件で、幸せになれる離婚がしたい!

この記事へのコメント

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No Name
晴子さん最初から楓の離婚に対してしゃしゃり出て来過ぎだし、今迄送り迎えで幼稚園になんて滅多に来れずママ友も出来なかったような人が、門の前で楓を待ってるとかどうも不自然。「またじっくり話聞きたいな」も余計に怪しい。光朗と繋がってるかも???
2024/04/25 05:3026
No Name
妹に光朗が家を出た事を打ち明けた?
ポストに入っていたダンナからの手紙を開封したら離婚届でびっくりした際、妹の麻美は目の前にいたと思ったけど…
その時、有明にマンション借りて帰って来なくなったと話さなかったっけ? 
2024/04/25 05:4325
No Name
ぜったいに…黒だって
探偵のイケオジに促されて、夫の怪しい行動を思い出して、ようやく今になってもやもやが確信に変わったって?いや遅過ぎると思うけど😂😂 どこまでぼんやりなの、楓は。
2024/04/25 05:3519
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