仕事にも恋愛にも振り回されることなく、365日24時間、イイ女でいたい。
東京で賢く生きる女性は、誰もがそんな思いを抱いている。
しかし、ITベンチャーに勤める27歳の茜は毎日を楽しめずに、モヤモヤを抱えていた。
どうしても手に入れたいハイスペックな男性を目の前にしても、“あること”が気にかかり、恋活にも前向きに取り組めないでいるのだ。
― 自分だけ人生が停滞しているみたい……。
そんな悩みのどん底にいる彼女に襲いかかった、さらなる試練とは?
「彼を絶対に手に入れたい」と燃え上がる27歳営業女子・茜
「ウソでしょ!!??!?」
麻布十番にある、こぢんまりとした創作イタリアン。
食事会に参加していた茜は、姿勢を正し、とっさに髪を整えた。
― え、陸人くん……だよね?
遅れて登場したスラリと背の高い男性に、どう考えても見覚えがある。
「遅れてすみません。陸人といいます。コンサルの経営をしています」
今日の食事会は、男女4対4。陸人の姿に、他の女性陣が明らかに色めき立ったのが茜にはわかった。
― やっぱり、あの陸人くんだ…。一段とかっこよくなってる。しかも今は経営者?
懐かしい記憶がよみがえる。それは、茜が高校1年生のときのことだ。通っていた中高一貫の女子校の文化祭に来ていたのが、陸人だった。
「隣の男子校に通っている」という彼は、当時から端正なルックスの持ち主。文化祭が終わってからも、その存在が学校中でしばらく話題になった。
茜はそんな陸人に声をかけられ、メールのやりとりをしていた。
でも、恋愛経験が少ない高校生の茜は、照れくさくて当たり障りのない返事ばかりを送信。いつの間にか連絡は途絶えた。
― 私、しばらく落ち込んだんだよね。…陸人くんはもう、覚えてないか。
茜は冷静を装い「初めまして、陸人さん」と挨拶をした。
◆
食事会が終わり、タクシーを探そうと、麻布通りを抜けて一の橋交差点にみんなで向かう途中のことだ。
「茜さん」と背後から呼び止められ、全身がビクッと硬直する。陸人の声だ。
「よかったら、次の週末にでもまた会えないですか?」
「…え?も、もちろんです」
「じゃあ土曜にしましょう」と、LINEを教えてくれる陸人。スマホを動かす手元には、パティック フィリップのカラトラバがちらりと見え隠れしていた。
― ブレザーの制服もよく似合っていたけれど、細身のスーツはもっと似合う。しかもこんなオシャレな時計もしているなんて、すっかり大人の男性だなあ。
陸人を見つめながら、茜が「絶対にこの人を手に入れたい」と思うのは必然だった。
しかし、約束の前日。“ある理由”で茜は、デートをキャンセルすることになる…。