すべてを求める欲張りな男と女へ。 『美しくなるレストラン』 Vol.3

プリズマ

PRISMA

『イル リストランテ ネッラ ペルゴラ』で自己表現を果たしてきた斎藤智史シェフ。
新たな挑戦のステージは南青山で、そこには前進を続けるシェフの姿があった。

店舗デザインを手掛けたのは村上隆氏との仕事でも知られる建築家・荒木信雄氏。「最後の最後まで色々とこだわっていて、その姿勢は勉強になりました」

自身のアイデンティティを保持しつつ果たされる、表現する心

これほどまでに余白を活かした空間は恐らく、ほかにないのではないか。およそ140平米の室内に、設えられた席はわずか14席。奥にはやはり広々とした厨房があり、作業台に向かって料理を盛り付けるシェフ、斎藤智史氏の姿が。

「飲食店を手掛けるのは初めてという建築家の方と3ヶ月ほど、毎日打ち合わせを重ねました。厨房レイアウトなど、基本は僕の注文通り。けど、細部にはその方の気持ちも詰まっています」

尊敬する沼尻芳彦シェフに『イル リストランテ ネッラ ペルゴラ』のすべてを託し、今年2月に構えた、ここは氏の新たな挑戦の場だ。

料理は昼夜共に、おまかせコース1本のみ。月替わりを基本とするが「思いつきで替えちゃうことも」あって、夜ならアミューズ2皿に続いて前菜とパスタが共に2皿ずつ。さらにメイン、ドルチェと進んでフィナーレを迎えるが、間に口直しのグラニテとフルーツが2回入るという構成。皿数は驚くほど多いが、食べ進めるうちにどんどん食欲が湧いてくる。何より素材同士の競演が見事で、ひとつが突出することなく、渾然一体となって美味を奏でる。

「“立体的になったね”とは言われます。本当はぶっつけ本番が好きで『ペルゴラ』ではしていなかったんですが、今回は試作もしています。そうすることで自分の新しい一面を引き出したかった」

斎藤氏がここで表現しようと貫くのは「料理人が作る店」。その店では、一料理人の奮闘が求心力を生む。そこにはリストランテが持つ既成概念もなく、売るために媚びる作為もない。スタッフはもちろんだが建築家も、素材の生産者も、ワインの醸造家も、関わるすべての人達が己のアイデンティティに忠実であろうとしていて、その想いがここで“気”となって満ちている。余白は十分にあるが、その中身は濃いのだ。

「ここがダメなら料理人を辞めたっていい」と語る斎藤氏に、信ずる道を進む、男の美学を垣間見る。

右.カラダに馴染むレザーチェアはドイツのウォルター・ノール社製 左上.ティラミス。凍らせて粉砕したトルタ・チョコラータとエスプレッソのチップをトッピングした 左下.オリーブオイルをまとったシマ海老と塩水ウニ、茄子のババレーゼとトマトのジュレ・デリカート。前菜の一例。ジュレは1日かけて落としたトマトのジュースをアガーで固めた

右.トマトのタリオリーニ。高知・坪井町で永田農法により作られるトマトのほか、味に深みを出すため全3種のトマトを使用する。料理はすべて夜コース¥10,000より 左上.ゆったりした空間で道に面して三面あるガラス戸はすべて開く 左下.美学を追求する斎藤智史シェフ

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