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  • SideB:2回目のデートでアプリで出会った男の家に行った女。夜までいたら彼に言われた意外なセリフ

    「変な言い方かもしれないけど、愛香ちゃんとは会ってまだ2回目っていう気がしないんだ。一緒にいてこんなに居心地がいい女の子は初めてで。

    よかったら、これからも会ってもらえないかな?」

    「は…はい、もちろんです!」

    思わず声がひっくり返ってしまったのは、愛香も全く同じことを考えていたからだ。

    彰のことはずっと前から知っているような気がする。無言の時間さえも心地よい、かと思えば会話は新しい発見に満ちていて、知的な刺激がある。

    今までの彼氏とも、栄輔とも違う魅力。

    近づけば近づくほど、愛香はますます彰のことを知りたくなるのだった。



    3回目のデートは、映画鑑賞からの都内のレストラン『Antichi Sapori アンティキ・サポーリ』。その次は美術館とショッピングと、それからというもの、愛香と彰は様々な所へ出かけるようになった。

    出会う前からインドア派を自称していた彰だが、「乗り心地も性能もいいし、電気自動車は環境にも優しいから」と、愛車のアリアでのお出かけは頻繁にするようで、いつも愛香の送迎をしてくれる。

    それなのに…。

    ― ドライブ好きなところは同じでも、栄輔くんとタイプは全然ちがうんだよなぁ。

    悪いと思いつつも、助手席に座りながら愛香がそんなことを考えてしまうのには、ある理由があった。

    彰とデートするのは、今日で5回目。にもかかわらずふたりの関係は、一向に縮まる気配がないのだ。

    ― 彰くんは私のこと、どう思ってるんだろう?もしこのまま優しいだけの人だとしたら、この先はない…かも?

    デートの舞台は、箱根だ。

    彰のおすすめの宿に日帰り温泉デートに来たものの、温泉を楽しんでいる間も、地産地消の古民家フレンチでディナーをしている間も、いつものような穏やかな空気が流れるばかり。

    「愛香ちゃん、今日も楽しかったね」

    観光を終えた彰は、すんなり帰る気満々のように見える。いつもと変わらず愛香の足元を気遣いながら駐車場へと向かう横顔を、愛香はちらと盗み見た。

    ― あーあ、やっぱり今日も進展なし…かぁ。

    煮え切らない関係にやきもきしていても、彰の横顔は憎たらしいくらいにかっこいい。すらりと伸びた手の指は、爪の先まで清潔で───と、そこまで考えたその時。


    愛香は思わず、全身が心臓になったみたいにドキドキするのを感じた。

    指の長い彰の手。その手がふいに、ぎゅっと愛香の手を奪って握りしめたのだ。

    「…!」

    細身の体と美しい顔に似合わず、彰の手は、指は、意外にも男らしく骨ばっている。

    大きくて、温かい手。

    あまりのときめきに何も言えないまま、愛香はされるがままに手を繋いで歩く。そして、短い散歩を経てアリアのところへ到着すると、彰はパッと手を離して言ったのだった。

    「はっきり言っておくね。僕、愛香ちゃんが好きだよ。だから、僕だけを見てほしいと思ってる。

    僕を選んでもらえるように、これからは遠慮しないから」



    「あれって、どういう意味だったんだろう…」

    彰に告白されてから数日後。オフィスのデスクでカレンダーを見ながら、愛香はポツリとつぶやいた。

    「僕だけを見てほしい」という言葉の意味を、ヒートアップした頭で何度も考える。

    けれど、本当はわかっていた。大人の彰には、愛香の行動や気持ちなんてお見通しだったのだ。

    栄輔くんと比べていることも、はっきり「好き」って言ってほしいと思っていたことも、彰くんは何もかもわかってたんだよね。

    そう。何もかもわかっていた上で彰は、ずっと愛香の気持ちを尊重してくれていた。

    愛香のことが、好きだから。

    そう思うと、愛香の胸はぎゅうっと締め付けられたように苦しくなる。

    クールに見えて、内側に男らしさと情熱を秘めている彰。次々に見せる新しい魅力に、愛香はくらくらと頭を抱えてしまう。もはや完全に彰のペースだった。

    愛香の卓上カレンダーの日付は、記念すべき日を示していた。

    「どうしよう。自分の気持ちがわからないまま、誕生日になっちゃったよ」

    彰との出会いから3ヶ月。今日こそが“最高のパートナーと過ごす”と決意した30歳の誕生日であるものの、結局、彰とも栄輔ともデートの約束はしなかった。

    彰と繋いだ手の温もりも、強く抱きしめられた栄輔の力強さも、まだ感触が消えないでいる今。彰と栄輔への気持ちはどちらも強まる一方で、答えが出るまでは会うわけにはいかないと感じたのだ。

    ― そろそろ、どちらかはっきり選ばないといけない。大切にしてくれる彰くんに、これ以上失礼なことはできない。

    いよいよ仕事が手につかなくなった愛香は、大きなため息をつきながらPCを落とし、オフィスを後にする。

    だけど、肩を落としてオフィスのエントランスを出た、その時。愛香は思わず自分の目を疑うのだった。

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