私の名品テラピー Vol.11

高卒で監査法人トーマツに入社。母親を思い出して「思わず涙した」理由とは?

名品には数々の効力がある。

身に着けることで日々のモチベーションアップにつながったり、自分に自信をくれたり――。

まさに、大人たちのお守り的存在だ。

本連載では人々から愛され、流行に左右されることない一生モノの“ファッション名品”にフォーカス。

今回登場するのは、経営者・税理士として活動する辻哲弥さん。彼が紹介してくれるアイテムとは?


▶前回:社会人1年目にルブタンを購入。「金額で迷うことはない」と言い切る、26歳広告女子のお買い物事情

今回お話を聞いたのは、辻哲弥さん


1998年生まれ、愛知県出身の24歳。高卒で有限責任監査法人トーマツに入社。その後、会計事務所勤務を経て昨年独立し、現在は代表公認会計士・税理士として働く。

よく行くエリアは銀座、六本木。趣味は筋トレ、レストラン巡り。高校時代はラグビー部に所属。


独立の記念で購入した、ルイ・ヴィトンのネックレス


まず辻さんが名品アイテムとして紹介してくれるのは、ルイ・ヴィトンのネックレス「エセンシャル V」。

ルイ・ヴィトンの幾何学的な「V」モチーフと、チェーンに施された「LVサークル」が特徴的なアイテムだ。

2022年2月、ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店で約6万円で購入


「前職の有限責任監査法人トーマツを退職して、起業という新しい道に進むタイミングに合わせて購入しました。この先、自分の力で頑張っていくんだ、という想いがこもっています」

お気に入りのポイントはシンプルでありながら華やかなところで、日常的に着用しているという。

「仕事でもプライベートでも、シャツスタイルで胸元を開けるファッションが多い。寂しくなりがちな胸元の部分を華やかかつ上品にまとめてくれます」


モンブランの万年筆は「一人前の大人になれた証」


次に紹介する、モンブランの万年筆「マイスターシュテュック プラチナコーティング 149」は、王道のファッションアイテムとは少し違うかもしれない。しかし、このアイテムに込める辻さんの想いが強かったため掲載という運びに。

2023年5月、モンブラン 銀座本店でケースと合わせて約20万円で購入。キャップ部分(写真右)に名入れすることで世界に1つだけのオリジナル万年筆になった


「起業して約半年、従業員も入り収入も安定してきた頃です。当初の目標だった“月収100万円”を超えることができた。ようやく一人前の大人になれたと感じ、記念として購入しました」

そう語る辻さんは起業家になることを高校生のときに決断したという。

そのためには大学に進学せず、実績を早く積みたいと20歳で監査法人に入社。23歳で法律を体系的に学ぶために慶應義塾大学大学院に入学し、同時に退職。しかし、半年後にはその大学院も自主退学している。

仕事・学問に勤しみながら、公認会計士試験に合格し、23歳という若さで昨年見事、独立・開業を果たしたのだ。

「高校生の頃から『限りあるお金と時間を、有意義に使う人生を送りたい』と思っていて。じゃあどうすればいいのかと突き詰めて考えると、経営者という立場で、目の前で起こり得る物事に対して自由に意思決定することが重要だと思った。

そのために、大学4年間を勉強だけに捧げるのでなく、現場で経営を学ぼうと思い、就職することを選んだんです。夢である起業を叶えるための近道を行くんだ、という思いからでした」

辻さんが通っていた高校は地元屈指の進学校。「受験して合格を得た大学を蹴る」と決断したことに対し、両親、特に母親には最後まで反対されたという。

「母親からは『大学に行かないなんてあり得ない』と言われました。最後まで僕の決断を認めてくれなかったですね。最終的には無理やり押し通す形で、監査法人に入社し、まずは会計士になるための勉強を始めたんです」

紆余曲折の時を経て早5年、ようやく夢を叶え昨年独立した記念に購入したのが、モンブランの万年筆だった。


感謝を伝えたい相手は、一番の敵であり味方である母親


この万年筆で初めて手紙を書いた相手は、母親だったという。

「昔からスマートな紳士に憧れていました。そのイメージの強い『モンブラン149』をいつか手に入れたかったのですが、まだこのペンに見合う男になれていないと思い、購入できなかった。

これまでは自分を強く見せるために、わかりやすいハイブランドの服やバッグを購入してきました。でも、このモンブランの万年筆は『自分を誇示する』という目的以外で初めて購入できた品なんです。

買ってすぐ、母親には、『ようやくここまで大きくなれました。いつもありがとう』と、感謝の意を込めて短い手紙を書きました。これまでの人生で、母親が一番揉める相手だったんです。地元での思い出なども蘇ってきて、色んな気持ちが交錯しました。手紙を書いている最中は思わず涙してしまった」と話す。

母親から返事があったのだろうか?

「特に無かったです(笑)。でも、『わかっているよ』という感じでした」

お気に入りのポイントは、「シンプルで重厚感のあるデザインと、持っているだけで所作がきれいに見える上品さ。圧倒的な書き心地は言わずもがなです」。歴史あるブランドの堂々たる品質は言うまでもないだろう。


起業して早1年。仕事がライフワークになっている辻さん。彼が紹介してくれた名品たちは「毎日を頑張るためのエネルギー」になっているという。

取材の最後に、これからの夢について聞いてみると――。

「僕は、“高卒で起業”という少し特殊なバックグラウンドを持っている。この経験を活かして今よりも影響力を持つことで、他者を応援できる人間になりたいんです。例えば僕みたいに起業して、会社に縛られずに自ら動いて生きることを楽しいと思ってくれる人が、1人でも増えたらいいなと思います。

これからは、そのための活動に、お金と時間を使っていくつもりです。たった1回の人生、我慢したまま終われないですから」

切なる野望を胸に、起業家としての人生を一歩ずつ歩み始めている。


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写真/品田健人

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