ハラスメント探偵~通報編~ Vol.9

「性的な噂を流布」したのは他社の社員。それでもセクハラと認定される!?

慣れない“接待”でつい酒が進んでしまい…


「白石先生、どうぞこちらに」
「ああ、悪いね。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

白石佳孝(60歳)は地域総合病院で内科部長を務める男だ。実年齢よりも老けた見た目で、決して偉ぶらない態度は、まさに好々爺という表現がぴったり合う。

お酒もつがれるばかりでなく、青山や新人の安倍にまでお酌し、日頃の労をねぎらってくれるのだった。


“接待”に慣れない2人は最初こそ気を張っていたものの、気が緩むのは時間の問題だった。

「青山くんの評判はウチの病院まで届いているよ。たまに院内の雑務なんかも手伝ってくれているんだろう。事務方や看護師らが気のきく若者だと褒めていた。そのうち、業界のエースだなんて言われるんじゃないか?」
「いえいえ、先生、何をおっしゃいますか。僕なんてまだまだですよ。業界にはツワモノがごろごろいますんで」

青山は人並みに酒を飲めたが、その日はいつも以上に酒を飲むペースが速かった。

“あの人、ゴシップが大好きで口が軽い。おだてるのはいいが、くれぐれも会社の不利益になるようなことは口にするなよ”

頭の片隅には先輩の三沢からの忠告が残っていたが、遂には大したことではないと思うようになっていた。

「で、さっき青山くんが言っていたツワモノっていうのは、どれだけすごいんだい?」
「それが、なかには整形までして、関係者に色気を使って心を掴む営業マンもいるようです。噂では、枕営業なんかもしているそうで。それだけの覚悟が私にあるかどうか」

青山は、業界の噂話をあくまでその場を盛り上げるネタとして話したつもりだった。しかし、白石は興味津々といった顔で尋ねるのだった。

「それって誰なの?僕の知っている人かな?」

この時に適当にごまかせば良かったのだろうと、青山は後になって悔やんだ。

「誰だと思います?それは…医療機器メーカーBの田辺さんですよ」

医療機器メーカーBとは青山が勤務する製薬会社Aと多少の取引があったが、普段から頻繁に接点があるわけではなく、田辺という女性についても病院で顔を合わせる程度だった。

「え〜、あの綺麗な女性が。あれって整形なの?しかも、枕営業まで?」

―― 1ヶ月後、青山は上司の近藤保(42歳)に会議室に呼び出された。


「お前、白石先生との食事会の時に医療機器メーカーBの田辺美由紀さんの話をしたか?」
「そういえば、…話したかもしれません」
「じゃあ、田辺さんが整形していて、枕営業までしている、なんていう話をしたか?」

青山が躊躇しつつも頷くと、上司の近藤は頭を抱えた。

「実はな、医療機器メーカーBからウチに連絡があった。同社の女性社員がありもしない性的な噂を流布されたことで人的信用が傷つけられたと、会社にセクハラとして訴えたそうだ。

そこまで言えばわかるよな?その噂を流布した行為者として疑われているのが白石先生と、お前だ。

先方は現状、弊社での事実確認と再発防止対策、そして行為者からの直接の謝罪を要求しているだけだが、どう対応するかは法務と人事の判断に委ねる。お前はその判断に真摯に受けとめ応じるように」

単に場を盛り上げようと話した噂話、しかも白石医師と青山に疑いをかけているのは、自社の人間ではなく、他社の社員…。これってセクハラになる!?

結末が知りたい方はこちらから>>

▶NEXT:10月11日 水曜更新予定
いよいよ最終回!次回はどんな案件が待ち受けているのか

監修:株式会社インプレッション・ラーニング
代表取締役 藤山 晴久

全国の上場企業の役員から新入社員を対象とした企業内研修や講演会のプランニング、講師を務める。「ハラスメントに振り回されない部下指導法」 「苦手なあの人をクリアする方法」などテーマは多岐にわたる。

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