現代のビジネスシーンを生き抜く上で、ハラスメント対策は必須だ。
だが、暴力や暴言など明らかなブラックゾーンの案件は全体の1割で、9割は判断しづらいグレーゾーンといわれている。
では、その見極め方とは?
それらのジャッジを手助けするのが、通称ハラスメント探偵と呼ばれる藤川小五郎。
今回は、家族の写真を飾っていることが、セクハラだと内部通報されたケース。
果たして、結末はいかに!?
※この物語は実話を元にしています。※人物名は仮名です。
監修/株式会社インプレッション・ラーニング
代表取締役 藤山 晴久
取材・文/風間文子
前回は:ランチに食べていた“あるもの”の臭いが物議に。果たして、悪臭はハラスメントになる!?
とある会社で起こった「セクハラ騒動」が思わぬ展開に
「どうして、こうなるかな…」
僕の名前は藤川小五郎、一介のハラスメント問題を専門に扱うコンサルタントだ。
目の前には前回と同じ光景があった。
葉山さおり(32歳)がオフィスにある応接室のソファに座っていて、違うのは隣に座っている人物だ。
葉山が連れてきたのはリノベーション会社の社長・佐々木久美子(40歳)という女性だった。
「7年前に小さいながらも空間デザインの会社を興しまして、4年前からは主に家族向けのマンションや戸建てのリノベーションを手がけています。
それが、新型コロナが流行した時期と重なったこともあって、会社の業績は急成長しました。そこで2年ほど前から、会社の規模を拡大させています」
「今が勝負どきとなるわけですね?」僕が尋ねると、佐々木社長はコクリと頷いた。
そんな彼女を悩ませているのが、いま社内で起こっているセクハラ騒動だという。
「そこでハラスメント探偵の出番というわけです!」
「いやいや、だから僕は“探偵”じゃないから」
僕は、またも厄介ごとを持ち込み、さらには悪ノリする葉山を睨みつけた。
内部通報した相談者は森本純子(37歳)という女性で、セクハラの行為者とされているのは同僚の井上正嗣(30歳)という男性だという。
「それで…内部通報した森本という女性は未婚者で、同僚が自身のデスクに飾っている家族写真を目にする度に不快に感じ、それが就業意欲の低下につながっていると?」
佐々木社長は再び頷いた。そこまでは、まだ平穏に事は進んでいたはずだ。
「御社の就業規則やセクハラ防止対策の規定内容に、家族写真については?」
「…いずれも、そうしたことを想定した規定はありません」
「だったら…」僕がそう切り出そうとした時だった。佐々木社長は突然声を荒らげ、言葉を遮るのだった。
「ですが、純子ちゃんは些細なことは気にしないタイプです。そんな彼女がセクハラだと訴えるということは、相当に思い悩んだんだと思うんです。それを無下にしてしまっていいんでしょうか?」
前のめりになって悲痛な目を向ける彼女を前にして、僕は何かが引っかかった。
― 何だろう、この変な違和感は。
その正体が何なのかまではわからなかったが、とにかく、今回も面倒なことになりそうだということは直感でわかった。
そんな憂鬱を知ってか知らずか、葉山が口を挟んだ。
「あの…そもそも、家族写真を職場に飾ることってセクハラになるんですか?」
僕は、いつものように天井を見上げていた。
職場に家族写真を置くことは果たして「セクハラ」?
そもそも「職場におけるセクハラ」とは、男女雇用機会均等法の11条1項(2007年改正)を基にしている。…
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