2023.07.27
世田谷の中でも個性的な魅力をたたえ、今また注目されているエリアがある。
演劇、音楽、古着など、カルチャーシーンを長きにわたって牽引してきた街、下北沢。
老舗の劇場に、古き良き町中華、あの名優にも愛されたジャズバー…この街を代表する、ディープな聖地3カ所を巡礼してみた!
演劇の街・下北沢を代表する劇場「ザ・スズナリ」。“鈴なり横丁”のネオンサインがノスタルジックなムードを誘うこの建物は、元々創業者である本多一夫氏の所有する飲食店とアパートの入った飲み屋横丁だった。
若かりし日に映画俳優を志していた本多氏が、1981年に一角を改修してオープンさせたのが「ザ・スズナリ」なのだ。
当初は、同氏が所長を務める俳優養成所「ホンダスタジオ」の稽古場兼公演発表の場として、また翌82年にオープンする「本多劇場」の稽古場として使われるが、程なくして、「稽古場にしておくのはもったいない、劇場として使わせてほしい」との声から、本格的に劇場としてのスタートを切る。
初めは観客席から舞台までフラットだった構造が、俳優の渡辺えりさんの意見をもとに観客席を階段状に変えたというエピソードからも、関わってきた人々のさまざまな声によって、「ザ・スズナリ」の現在のカタチが作り上げられことが窺える。
下北沢最古の劇場は、これから先も舞台関係者とともに少しずつそのスタイルを変えながら、演劇の街にあり続けるのだ。
■施設概要
施設名:ザ・スズナリ
住所:世田谷区北沢1-45-15
TEL:03-3469-0511
下北沢を代表する町中華『珉亭』。
現在二代目としてお店を切り盛りする鮎澤陽子さんの父・佐藤進一氏は、1964年に下北沢の地でこの店を創業する。
以来、ずっと下北沢の胃袋を支え続けてきた。
「1969年くらいには今の場所に移ってきたんじゃないかな」という現店主の言葉どおり年季の入った建物は、新しく変わりつつある下北沢の景色にも心地よくなじむ。
2階の座敷スペースに上がると、そこにはズラリと著名人のサイン色紙が飾られ、さらにこの店の歴史の長さを雄弁に物語る。
なかでも鮎澤さんの記憶に残っているのは、下積み時代にこの店でバイトをしていたミュージシャンの甲本ヒロトさんだ。
町内会の旅行に参加したり、バイト終わりにオーナーの家で仲間と飲み明かしたり……。当時から働く従業員が亡くなった際には、故人を偲ぶ会にもいまだに参加するそう。
店の入り口のショーケースにある、世界で3番目にうまい――1番うまいもの「あなたのオフクロの味」、2番目は「おやじのスネの味」、3番目に「珉亭のソバの味」という言葉が今日も心に沁みる。
■店舗概要
店名:珉亭
住所:世田谷区北沢2-8-8
TEL:03-3466-7355
営業時間:11:30~(L.O.21:30)
定休日:月曜(祝日の場合翌日)
席数:カウンター7席、テーブル10席、座敷40席
1970年代に劇団の座長をしていた大木雄高さんが、この地でジャズバー『LADY JANE』を開いたのは75年のこと。
「これまでバーなんてやったこともない素人だった」と当時を振り返る大木さんは、店の骨子を自らが愛してやまない「酒・音楽・映画」に決める。
結果、それが功を奏して開店から間もなく、東京藝大や東大・演劇研究会の学生たちが集うように。
店も軌道に乗り改装を終えた78年、互いに劇団の座長を務めていた時代から面識のあった松田優作氏が、フラリと劇団員を連れて店を訪れる。
彼らが店内で映画論をぶつけ合っている最中、突然松田氏から大木さんに声がかかり、とある映画の感想を聞かれた。
「あれは監督もすごいんだけど、監督が選んだカメラが良かった」と答えると、「酒場のオーナーでもこんなに的を射た批評をするぞ」とばかりに、満足気に「ほらな」と劇団員たちに声をかけたそうだ。
以来、ふたりは映画観や人生観について語り合う間柄となった。
稀代の名優も愛した『LADY JANE』は、今日も下北沢の片隅で「酒・音楽・映画」の三骨子を守り続けている。
■店舗概要
店名:LADY JANE
住所:世田谷区代沢5-31-14
TEL:03-3412-3947
営業時間:18:00~(L.O.25:30)
定休日:月曜、火曜
席数:テーブル22席、カウンター8席
今月の『東京カレンダー』は「下北沢という刺激」特集。初めて特集する「下北沢」で大人が楽しめる店だけを厳選してピックアップ。
普段行き慣れないエリアを攻略してこそ、東京の大人だと改めて実感した。「下北沢」は若者だけに遊ばせておくのはもったいない!
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