同業他社の外資コンサル・エリート男:健太郎(31)
「こんばんは。真島さんの…」
「部下の藤崎です。はじめまして」
「真島さんの大学の後輩の、早川健太郎です。モモさんですよね。真島さんからよくお話伺っています」
柔らかなアイコンタクトから、自然と会話が始まる。
― あれ。なんか距離感の心地いい人だな…。
外資コンサルには「人たらし」と呼ばれる人種が非常に多い。
営業には高いコミュニケーション能力が必要だし、大企業の経営者たちと毎日渡り合うには、頭の良さはもちろん、その人の懐に入り可愛がってもらう能力が必須だからだ。
健太郎もその一人だと感じた。
地頭が良く、話のテンポがいい。初対面だったが、同業であること、真島さんとタイプが似ていること、そして人当たりのよい彼自身の性質も相まって、先付けが出てくる頃には私たちはすっかり打ち解けていた。
健太郎は、真島さんと同じ京都大学を卒業した後NYへ渡り、コロンビア大学でMBAを取得したという。今の勤務先は、世界トップクラスのコンサルティングファームだ。
「すごい経歴ですね」
「ありがとう、努力してるからね」
「なぜウチに興味を…?」
「うん。今の会社での仕事はもう数年経験したし、なんというかこの立ち位置に飽きちゃって。御社で何か、おもしろいことできないかなって」
飽きるという気持ちも、なんとなくわかる。
ハイスペックを極めたところで、手に入れたものは色褪せていく。
隣の芝生はいつまでも青いのだ。
自分たちの生い立ちから海外生活の話、今の仕事に至るまで、二人であれこれと話しているうちに2時間があっという間に経ってしまった。
水菓子として出されたメロンをほろ酔いで食べ終え、化粧直しに席を立つと、真島さんから電話がかかってくる。
「二人とも、ごめん!結局まだオフィスなんだ。今日の埋め合わせはまたするから。モモちゃん、領収書もらっておいて」
このようなことは、日常茶飯事である。コンサルティングの仕事はクライアント第一。内輪の予定は後回しだ。
私はサッと会計を済ませて、席へと戻った。
「健太郎さん。真島さん、やっぱり間に合わないみたいです。今日の埋め合わせはまた後日に、って」
「だね。さっき、俺にもLINE来てた。モモちゃんは、まだ時間ある?よかったらもう少し話そうよ」
― 久しぶりの同世代との会話だし、もう少し飲もうかな。
◆
料亭を出た私たちは日比谷方面へ歩き、日比谷オクロジの『FOLKLORE』にやってきた。
茶室の躙り口のような入り口を二人で頭を下げてくぐると、心地よい木の香りに包まれる。
カウンターに座ると、すぐ隣から健太郎の大きな肩の温もりが伝わってくるような気がした。
「健太郎さんって、鍛えてるの?」
「うん、会社の福利厚生でジムに契約があって、プールもサウナもあるからほぼ毎日行ってる」
「さすが。学歴も収入も外見まで、何もかも兼ね備えてますねぇ」
「でしょ。ビジュアルも大事だからね。謙遜はしないよ」
言葉だけ見れば、なんて高慢な男なのだろうと感じてしまいそうだ。
けれど、決してそうは思わせない不思議な魅力が、健太郎にはあった。きっと、実際に全てを兼ね備えている男だから、嫌味を感じないのだろう。
けれど、一呼吸置いた後。健太郎は形の良い眉を少し歪めて言った。
「でもさ、そんな俺にもひとつ悩みがあるんだよね」
「悩みなんてなさそうですけど」
「今の自由な生活には、満足してるんだけどさ。モモちゃんは頭がいいから、わかってくれると思う。…単刀直入に話すけどいい?」
この記事へのコメント
結局は妻(女性側)に甘えるような気がしてしまう。お金で解決も出来るけど度が過ぎると子供が寂しくて七夕の短冊に新しいパパくださいとか書かれてちゃうかも🤣
健太郎が望む子供のためのパートナーは、とりあえず同じ業界の多忙な女性は止めたほうがいいかも…と思いました。
五体満足で産まれてくることは当たり前のことじゃないよ
そしてどんな風に産まれてきても愛おしい存在だよ