芸能人御用達の焼肉店『名門』の店主が、四谷三丁目の昔と今を語りつくす!

『名門』が体現する、焼肉屋の本来あるべき姿とは


「ウチの店では“分をわきまえる”ことを大事にしてます。

例え話になるんだけどさ、銀座の一流クラブで生ビールが数千円するのは理解できるとして、もしも八百屋できゅうりが500円したら文句のひとつも言いたくなるんじゃない?

これは焼肉屋にも通じる話だと思う。ほら、焼肉屋は鮨屋のように天然物を扱うわけじゃないし、成り立ちの背景からしてそもそも敷居が低い食べ物なのよ。

フランス料理のようにドレスコードもないし、肩書きや社会的地位でお客を差別することもない。セレブリティであってもひとりの人間として接するし、必要以上にへりくだらない。

だけどね、亡くなった安倍(晋三)さんだって、イチローさんだって来てくれる。これが焼肉屋の本来あるべき姿なんじゃないのかな?」

その言葉を裏付けるように、店内の壁という壁は実際に訪れた著名人の写真で埋め尽くされている。

複数枚にわたって登場する人も少なくなく、それはすなわち、この店がリピートしたくなるほど愛されていることを示唆している。

そこで聞いてみた。ヤッキーさんの目に映った“粋な大人”とは?

「24時間の使い方が人の価値を決める」と語るヤッキーさんは、店の誰よりも働く


「昔かたぎの大人は、ありがとうって気持ちを込めて必ずチップを与えてくれた。

僕もまあまあ古い人間やし、商売をやる人間の気持ちが分かるから、知り合いのお店に行った時は必ず心付けを渡すよ。それも食事の前に。

そしたら、店員はやる気を出すし、客はいい気持ちになるから、ウィンウィンで終われる。そういう好循環がウチの店でも行われていたし、今でもある」

俳優の中村玉緒さんは“名門に来ると パパと一緒にいるみたい おいしおす”と色紙にしたためたらしい。“パパ”とはいうまでもなく勝 新太郎さんのこと。

これは語り継がれている話だが、勝さんも飲み歩くたびにチップを渡していたようだ。一生懸命生きている人間たちから生の演技を見せてもらったことに対する“授業料”として。

今で考えれば、サービス料がソレにあたるのかもしれない。ただ、『名門』にはそのような料金システムは設定されていない。それでいてヤッキーさんの面白おかしいトークも楽しめる。

そんな豪快なところは、同業者たちをも引きつける。

ヤッキーさんの口からは、日本の料理界を牽引する一流シェフたちとの交流がポンポンと語られた。例えばこんな調子に……。

「成澤(=青山『NARISAWA』のオーナーシェフ)は僕より年下やけど、すごいヤツだなと思うよ。

前に日曜の21時過ぎに電話をかけてきてさ、“マスター、これから入れます?”って言うの。それで普通なら続いて人数を伝えるでしょ。でも、アイツは違った。

『何人ぐらい入れます?』と質問し、僕に答えさせる。で、コッチが30人って言ったら、ホンマに30人連れてきよった。コレ、どういうことか分かる?

相手の事情に自分の方が寄り添おうというスタンスなん。週明け前の夜遅い時間の営業で、お客さんがいないと思ったんだろう。そういう成澤の気遣いには義理を感じているよね」

ヤッキーさんはよく喋り、人を褒める。毒を吐かないわけではないけれど、インタビュー中もコメントを求められればそれに全力で応えようとする。

その一生懸命さに我々は心を動かされて、ついファンになってしまうのかもしれない。そんなことを思っていると、こう続けた。

「来てくれて、ありがとう。食べさせてくれて、ありがとう。そうやって素直に思い合えるのが、僕が理想とする店と客の関係。

僕にとって焼肉はあくまで“手段”なん。たまたま焼肉というモノを通じてお客さんとコミュニケーションをとっているのに過ぎない。

理想をいえば、焼肉を出さずにこうして話をするだけで対価をもらえる人間になりたい。ここで働いて37年、未だに十分やれていないんだけどさ(笑)」

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