2023.07.31
東京マザー婚活 Vol.1最近は、離婚も再婚も、珍しいことではなくなった。
それでも、シングルマザーの恋愛や結婚には、まだまだハードルはある。
子育ても、キャリアも、これ以上ないくらい頑張っている。
だけど、恋愛や再婚活は、忙しさや罪悪感からついつい後回しに…。
でも、家族で幸せになりたい、と勇気を持って再婚活に踏み出せば「子どもがかわいそう」「母親なのに…」と何も知らない第三者から責められる。
これは、第2の人生を娘と共に歩む決意をした、東京で生きるシングルマザー沙耶香の物語だ。
沙耶香の決意
「別れましょう…」
梅雨が明け、うだるような暑さの夏が始まった7月の土曜日。
沙耶香は、とうとう夫に離婚を切り出した。
夫の拓人は、一瞬驚いたように目を見開いて、沙耶香の方を見る。
そんな彼の顔を見て、沙耶香は「拓人と目があったのなんて、久しぶりだな」と、ぼんやりと思った。
「あぁ、わかった…」
拓人の返事に、覚悟をしていたにもかかわらず、沙耶香は胸の奥がズキンと痛んだ。
だが、それを悟られないように、最後は笑顔で別れようと、沙耶香は目いっぱいの笑顔を見せる。
拓人は元々外資系コンサル会社に勤めていたが、2年前に辞めて、仲間と共に起業した。
以前から仕事が第一優先だった彼は、さらに忙しくなり、家に帰ってくることがほとんどなくなっていた。
この頃から、拓人とすれ違うようになる。
何度も2人の仲を修復しようと話し合い、なるべく相手を思いやるようにと努力してきた。
だが、一度掛け違えたボタンが元に戻ることはなく、気がつけばお互いにとって、自分の家が一番、息の詰まる場所になってしまっていた。
次第に拓人は外に居場所を求め、どこで過ごしたのかわからない夜が増えた。
沙耶香は出産後、忙しい夫を支えるために、好きだった大手通信系の会社を辞めて、3年ほど専業主婦をしていた。
しかし、1年ほど前に離婚を決意し、以前勤めていた会社の上司の紹介で、渋谷にある食品宅配サービスのスタートアップ会社に就職したのだ。
4歳になる美桜の保育園も決まり、近くに住む妹夫婦に、何かあったときのバックアップケアも頼んでいる。
「じゃあ、細かいことは、後日弁護士も交えて話しましょう。美桜は私が引き取るつもりだけど、いいわよね?」
「ああ…」
沙耶香が美桜を引き取ることを、拓人が反対しなかったことに安堵する。
「今まで、ありがとう」
「あぁ。美桜のこと、よろしくな」
想像以上にあっさりとした別れに、“こんなものか”と拍子抜けしながらも、最後はお互いに笑顔で別れた。
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