【ほろ酔いシネマVol.3】異色コメディ『ロブスター』にはイタリアのヴィンテージワインを

無意味なルールに抗うスーパー・タスカン


新谷:そのバカバカしさがいいんです。ルールの不条理さを監督は鋭く突いていて、それに抗うことも映画の中で説いてるのだと思います。

嵩倉:で、柳さん、ワインはなんでしょうね?

:ルールに抗う……で、閃いたのがスーパー・タスカンかな?

嵩倉:タフマン?

:タ・ス・カ・ン。トスカーナのことだね。フランスやイタリアといった旧世界の国々では、ワインは土地の産物という考えが根強い。

だから、ワインは産地名が大事だし、またその産地を名乗るならばこの品種を植えて、こうブドウを栽培して、このようにワインを造りなさいといった厳しいルールがある。これがAOCやDOCといった原産地呼称制度だ。

「TENUTA DELL'ORNELLAIA ORNELLAIA 2020(テヌータ・デル・オルネッライア オルネッライア 2020)」


元祖スーパー・タスカン、サッシカイアの真隣に、1981年、創設されたワイナリーがオルネッライア。1985年が初ヴィンテージだ。

当初の格付けはヴィーノ・ダ・ターヴォラだったが、現在はボルゲリ・スーペリオーレDOCに組み込まれている。

2020年は入荷待ちで、2019年は38,500円/エノテカ TEL:0120-81-3634

動物に例えるならピューマ。しなやかでたくましい味わいが魅力の一本


嵩倉:シャブリとか、キャンティとかですね?

:クラリン、ちゃんと勉強してるじゃない。

嵩倉:てへっ。

:ところが第二次大戦直後、トスカーナのボルゲリという土地に、フランス・ボルドー地方原産のブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランを植えて、自家用ワインを造っていた侯爵家があった。

60年代になって敏腕醸造家の力を借りたところ、これが素晴らしいワインに仕上がり、1978年には英国のワイン専門誌が行ったブラインドテイスティングで、かのシャトー・マルゴーをもさしおき堂々の1位に。それが「サッシカイア」だ。

嵩倉:おお、噂の高級ワイン。

:ところがフランス原産のブドウ品種を使っているせいで、当時のルールでは原産地呼称が名乗れず、格下のヴィーノ・ダ・ターヴォラとして売り出された。

まぁ、後にルールを押し付けられて今ではDOCだけど、ルールなんてどうでもいい、世界をあっと言わせる偉大なワインが造りたいだけという、反骨精神がうかがえるよね。

新谷:では、今回のワインはそのサッシカイアに決定?

:と思ったけれど、「オルネッライア」にしましょう。

サッシカイアの登場後、多くのフォロワーがスーパー・タスカンと呼ばれて現れたけど、今では元祖サッシカイアを凌ぐほどの存在になったのがオルネッライア。

最新ヴィンテージの2020年は、最高醸造責任者のアクセル・ハインツいわく「La Proporzione“調和”」だそうで、じつに均整のとれた体躯。動物に例えるならピューマみたいなワインですね。

嵩倉:超高級ワインなんで、柳さんにごちそうしてもらいながら、この映画を楽しみたいです。

:ところで、ふたりは動物にされてしまうならなにを選ぶ?

新谷:私はウサギです。

:森の人たちに狩られて、食べられちゃうかも。クラリンは?

嵩倉:ライオン。

新谷:きゃっ!

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幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。今月のワインと、アメリケーヌソースのロブスター料理を楽しみつつ鑑賞したとか。


映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。独身の居心地よさに慣れてしまったけれど、柳さんに教えてもらったワインを一緒に味わうパートナーを探し中。


本連載の担当になって5年目に。ワインの知識は少しずつでも着実に積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。『ロブスター』鑑賞後から不条理な夢に悩まされ中。


▶このほか:大人が気取らずゆるっと酔える人気酒場へ!“仕事終わりの行きつけ”にしたい

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