乾杯も早々に、晃が曲を入れる。曲は新し過ぎず、古過ぎず、いい塩梅だ。何より、何も言わずに先陣を切ってくれる様に頼もしさを感じた。
銀座という街と、ワンランク上の場所にいる高揚感のせいだろうか。いつもカラオケは相手主導な私でも、今日は自ら歌いたくなってしまう。
「絵美さん、よかったらあの曲歌ってくださいよ!」
晃は歌っている最中はしっかり聞いてくれるのに、飲み物やフードもさりげなくオーダーしてくれる。
なかなかなシャンパンをボトルでオーダーしているのには驚いたけど(笑)。
部屋の中にはダーツまであるから会話以外も盛り上がるし、ふたりきりの空間で彼の魅力がさらに増していく。
「この曲、すごく好きだった!懐かしいな〜」
「晃くんも?私もこの曲、大好きだった!」
2回のデートで崩せなかった、微妙な距離。気がつけば敬語もなくなり、そして自然と密接して隣同士に座り合っていた。お酒のペースがいつもより早くなる。
店選びのランクによって、相手がどれほど考えてくれているのかがよくわかる。
晃はとっさにここに連れてきた風を装っていたが、受付の時、私が離れた瞬間、聞こえないように「予約の…」と言っていたのが聞こえていた。
今日のデートの本当の目的地はここだった。彼の見えすいた思惑が愛おしく思える。
「絵美ちゃんって、もっとクールな感じかなと思っていて…。どうにか距離を縮められないかって思ってて」
「そうなの?そんなの、私だってそうだよ!え、じゃあさ、お互いの高校時代の曲、歌おうよ」
カラオケでの2歳差は誤差だ。ほぼ同年代だし、その後の盛り上がりは言うまでもない。
テーブルの上に置いたスマホの画面が、23:50と表示されて光っている。でも私はそっとスマホをカバンの中にしまった。
― 今日はもう少し、このままで…。
夜はまだまだ、これから。黄金色に輝くシャンパンの泡が、目の前で弾けていった。