2022.08.30
「絵麻さんと、昨日からLINEが続いているんですよ。デートに誘おうかなと思ってるんです」
航太の状況を知る由もない和真は、無邪気な笑顔だ。
「へえ、よかったじゃん」
平静を装って返事をしつつも、航太は内心思う。
― なんで和真には返事が来たんだ?こいつ、正直、仕事も見た目も俺より冴えないのに…。
今まで感じたことのない敗北感だ。
― 久々の食事会で、俺の感覚が鈍くなってるのか?いや、もしかして、年齢のせいか…?
航太は、ふと自分の髪や顔を触る。
今年35歳。実は最近、髪のボリュームダウンや、肌の艶感がなくなってきたのが気になっているのだ。
― 俺だって、まだまだイケるって思ってるんだけどな。
人知れず、肩を落とした。
◆
翌日。
“既読スルー”の衝撃をひそかに引きずったまま、六本木にあるスペインバルに立ち寄る。
大学時代の同級生であり、今は大手金融会社に勤務している賢太郎と、1年ぶりに食事をする約束なのだ。
先にカウンターに座っていた賢太郎は、「おう、久しぶり」と小さく手を上げた。
ビールで乾杯し、ピンチョスをつまみながら互いの近況を報告する。すると、突然賢太郎が改まった様子で「実はさ」と切り出した。
「来月、入籍することになったんだ」
「えっ、そうなんだ!おめでとう!」
賢太郎は心底幸せそうに「ありがとう」と言う。
聞けば、相手は同じ会社の女性だという。美人で仕事ができる彼女は、賢太郎にとってずっと高嶺の花の存在だったそうだ。
「付き合って半年でプロポーズしたんだ。俺にはもったいないくらいの彼女だよ」
たしかに、と航太は思った。
賢太郎が、高嶺の花タイプの女性をゲットするなんて、正直意外だ。
― っていうか賢太郎、なんか…前よりカッコよくなってないか?
ふと見た横顔が、なんだか若々しくなったように思える。
1年前に一緒に飲んだときは「お互いお腹の脂肪が増えた代わりに、思うような髪じゃなくなってきて歳を感じる」なんて笑い合っていたはずだ。
「賢太郎さ、ちょっとカッコよくなった?やっぱり、美人と一緒にいるからか?」
航太がからかうと、賢太郎は照れ笑いをした。
「お前は幸せでいいなあ。俺なんか昨日、食事会で出会った子をデートに誘ったのに、見事に既読スルーされて…。この歳になったからか、今までと、なんか手応えが違うんだよなあ」
思わず絵麻の話題をあげると、賢太郎は「わかるよ」と深くうなずきながら、こう言った。
「俺もそう思ってたよ。30後半に差し掛かると20代の頃のようにはいかないもんだなって」
「そうだよなあ」
「まぁ、とにかく仕事で若いヤツらより実績を作ったりと頑張ったけど。…でもそれだけじゃ、だめでさ。見た目のケアも大事なんだって最近気づいたんだよ」
「見た目のケア…か」
航太は息をのみ、ひそひそ声で打ち明ける。
「実は俺、最近抜け毛のせいか、髪型がうまく決まらないんだよな」
賢太郎は真面目な表情を崩さなかった。
「航太さ、少しでも気になってるなら、今から髪のケアを始めたほうがいいよ。髪の印象って、すごく大きいから」
― 髪のケアなんて、まだ先でいいと思ってたんだけど…。
航太の心の声を読んだかのように、賢太郎が話し続ける。
「カッコよさってのは、一朝一夕では作れないもんだからさ。実は俺、『リアップジェット』で髪のケアしてるんだ」
「へぇー、『リアップジェット』?」
航太は、早速スマホにその名前をメモった。
◆
その後は、仕事や思い出話に存分に花を咲かせた。
「結婚祝いに」と会計は航太が持った。賢太郎と別れると、タクシーに乗り込み、すぐにスマホを開く。
「『リアップジェット』…だっけ」
検索すると、通販の情報が出てくる。賢太郎が言うならと、購入ボタンをタップした。
数日後。
届いた『リアップジェット』を、航太は、早速朝晩2回使ってみる。
― 正直、頭髪ケアというともっと手間のかかるものをイメージしてたが、これは手軽だな。
1回15プッシュ、ボトルの噴射部を頭皮に押し当てるだけ。時間にして約20秒という短さだ。爽快感のある薬液が頭皮にしっかり届き気持ちいい。
それに1本4,180円(税込)なので、値段的にも気軽に始められるのがありがたい、と航太は思う。
「ふう、これでよしっと」
スキンケアが並ぶ洗面台の脇に『リアップジェット』を置いた。
― 洗面台に置いても生活感のない、スタイリッシュなパッケージなのもいいよな。
なんだか前向きな気持ちになり、髪のケアだけでなく体もケアしたいと思えてきた航太は、休会していたパーソナルジムを再開。そのお陰でダラダラ過ごしがちだった週末にメリハリができた。
― 心も気持ちも、最近いい感じに整ってきた気がするな…。
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