ごめん、今日も遅くなる。 Vol.5

店を出た途端、女は彼氏に向かって泣き叫び…。幸せなディナーデートがぶち壊しになったわけ

エレベーター内の鏡には、浮かれた表情の柚と、沈んだ顔をした賢也が映っている。

賢也はまだ、穂乃果のことを諦めてはいないようだ。その証拠に、最近めっきり元気がない。

― はあ…そこまで執着するとはね。

賢也の気持ちは、柚が想像していたよりもずっと強いものだったのだ。



地上36階から見える夜景に、柚は目を細めた。

「綺麗ねえ」

「な。最高の景色だ」

雰囲気に飲まれたのだろうか。レストランに着くまで元気がなかった賢也に、笑顔が戻った。

「ワインも最高だ。柚、予約してくれてありがとう」

「ううん。なんか賢也、ここのところ元気なさそうだったから。喜んでもらえてよかったわ」

「うん…そうだね」

賢也は、曖昧な返事をしながら笑った。

「心配かけて悪かったよ。…ちょっと仕事が忙しすぎたんだ」

「そう…でも、最近は落ち着いたのね」

「うん」

仕事なんて、嘘だ。わかっていても柚は、その嘘を暴こうとは思わなかった。

すこし時間がかかってもいい。自分の方に気持ちが戻ってくるのを待とうと思っていたのだ。

穏やかな気持ちのまま、前菜のテリーヌにナイフを入れる。

「あー幸せ」

このとき柚はまさか1時間後に、自分が賢也に向かって泣き叫ぶことになるとは思ってもいなかった。


デザートの盛り合わせを食べ終え、コーヒーを楽しむ。

お腹が満ちたと同時に心まで満たされてきた。

「賢也、今日はありがとう。ひさびさのデート、楽しかったわ」

「うん、俺も」

賢也は、柚を見ながら微笑んだ。

それを見ると嬉しくて、柚は甘えた声を出す。

「ねえ、お盆休みさ、2人で旅行いかない?自然の多いところで、ゆっくり3泊くらいしたい」

「んーいいかもねえ」

賢也は、夜景に目を移しながら間延びした声で言った。

― 何?今の返事の仕方。

何かをごまかしているかのように聞こえる。

「…気乗りしないの?」

「そんなことないよ。なんで?」

「そう?なら、いいの。じゃあ早めに予約しちゃいたいな。今年は混みそうだし」

柚は「日程だけでも、今決めない?」とスマートフォンを取り出し、カレンダーアプリを開いた。

しかし、賢也は困ったように小声になる。

「いや…まだ日程はわからないや。仕事が入るかもしれないし」

「仕事?お盆に?」

付き合って丸3年。賢也がお盆に仕事が入ったことなどなかった。だからつい、問い詰めてしまう。

「そんなこと、去年まではなかったじゃない」

「…え、なにが言いたいの?」

柚は感じたのだ。

賢也はおそらく、穂乃果とどこかへ行こうと思っているのではないか。

まだ、穂乃果が戻ってくることに期待しているのではないか。もうとっくに、穂乃果の気持ちは創に向いているというのに。

「なにがって…仕事じゃなくて、なにか内緒の予定があるのかなって思ったのよ」

わかりやすいくらいに、賢也の瞬きの回数は多くなった。

この記事へのコメント

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No Name
最後、「もう彼女とは終わったんでしょう?」とか、その発言ちょっとやばいよね。そこまで知ってるっておかしいと思われる。
更に、自分がフラれたことをわからないとか思う柚、どんだけマヌケなの?
2022/06/17 05:3060返信5件
No Name
離れた気持ちって、そう簡単には戻らないんですよね〜。それで、ヒステリックになられたら、誰だって別れたくなりますわ。お盆の予定を今すぐ決めようとか、必死すぎてウザいだけなのに。
2022/06/17 05:2752
No Name
柚に飽きてるんなら別れてから次探せばいいのに。彼女持ちの男に口説かれてもキモいだけだし。
2022/06/17 07:3243返信3件
No Name
柚、やっぱりフラれた。ざまぁ…
2022/06/17 05:2235返信5件
No Name
先週、あれから夕ご飯何作ったのか気になったけどなぁ😂
まぁ所詮、飯炊き女だからね。穂乃果の気持ちが創に向けば、賢也の気持ちも戻ってくるとか勘違いした柚が幼稚なだけ。
2022/06/17 05:2423返信2件
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