『銀座 久兵衛』三代目をも唸らせたプレミアムなジンと鮨との相性とは?
「ROKU、うまいですよね」
若き社長が、板場に立つ三代目に思わず話しかけた。
その言葉に三代目、今田景久氏が笑顔を見せた。
創業80年を超える歴史の中で、初めてメニューに掲載されたというジン。ROKUが選ばれたのは当然、鮨との親和性あってのこと。
今田氏が語る。
「初めて飲んだ時に、これは鮨と合うな、と直感しました。ROKUのほのかな甘みが優しく包み込む。そんなイメージが浮かびました。
立ち上ってくる香りも繊細ながら、華やかでハッとする。それでいてネタを邪魔しない。日本人の感性に響くという点で、鮨との共通点をすごく感じますね」
ROKUに含まれる6種の和素材の個性を感じられながらも、滑らかに変化していく様も魅力的だと語る。
「柚子、桜花、桜葉の“甘み”から煎茶、玉露の“苦み”、そして山椒の持つ“スパイシー”へと滑らかに変化していく味わいはとても繊細。また、日本の四季を感じさせる素材や旬を大切にするこだわりにも鮨との共通点を感じます」
今田氏が共感した素材へのこだわり。それこそ、ROKUの真骨頂だ。
「原料選びや素材の活かし方に本物を目指す意気込みが感じられるんです。
僕たち鮨職人も魚の良し悪しを見極めることは大前提。でも、うちだけが仕入れられるネタがあるわけでもない。ではどこで差をつけるか、というのは常に頭にありますから」
その言葉に説得力がもたらされたのは、鯛の握りだ。
切り付けた鯛を桜の葉にのせ、香りを移した一貫は、透けて見える山葵が新緑の芽吹きをも彷彿とさせ、五感を揺さぶる。
ROKUに使用されている桜花、桜葉と静かに共鳴しあい、鯛の甘みが口内をやさしく満たす。
味わいや香りの個性は感じられながらも、絶妙なバランスで調和している点もROKUと和食の共通点といえるだろう。
また、“いい素材を適切に仕込むこと”。そこに心を砕いていることが存分に感じられる仕事は、続く小肌も同様だ。
江戸前鮨を代表するネタ、小肌。
今田氏がROKUに感じたファーストインプレッション、“ほのかな甘みが優しく包み込む”を文字通り、実感する一貫だ。
「どのタイミングで供すか、というのは魚にも重要なこと。
マグロのように“寝かす”ことで角が取れたり、“らしい”味わいが生まれる魚もあります。でも、寝かせることで損なわれる食感や香りもあるわけで。小肌はその塩梅が職人や店によって変わりますよね。
積み重ねてきた歴史や経験値もそこに活きてくる。うちは1935年創業。サントリーがジンを初めて販売したのが1936年。現在に至るまで、ほぼ同じ年数だけ受け継がれてきたものがあるという共通点にもご縁を感じます」
脈々と受け継がれてきた経験を活かし、素材の個性をどう活かすか。“本物”を目指す鮨職人とROKU。一流の矜持を垣間見た。